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「…八神くん。デジヴァイスが鳴ってる」


 未だ少し暗い表情のまま、栞が自分のデジヴァイスを手のひらに見えるよう持てば、太一はその機械を覗きこんだ。


「いつもの調子だと、近くに仲間がいるな」
「本当?」
「この前もこれが鳴った時、タケルと会えたんだ」
「お兄ちゃんと会える!?」
「会えるかもしれないぞ!」


 タケルの顔に、再び笑みが浮かんだ。愛らしい微笑みは、兄と再会できることを心から喜んでおり、パタモンと手を取り合っていた。
 太一はちらりと栞を見る。よくは分からないが、あの時から、栞はずっと暗い表情をしていた。そして、一言もイヴモンと会話をしていなかった。いつもは見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、べったりとくっついている印象が強かっただけに、不思議に思わずにはいられない。
 イヴモンがアグモンに声をかけた隙に、栞の肩に手を置いた。彼女は少しだけ驚いた顔をし、それから俯いた。


「なんだよ、その顔は〜。今から仲間に会えるかもしれないんだぞ?もっと嬉しそうな顔しとけよ」
「…うん。嬉しいよ。そういう顔、してない?」
「ぜっんぜん。すっげ、暗い顔してる」
「…ごめんなさい」
「別に謝って欲しいとかじゃないよ。――何か合ったか知らないけどさ、栞には笑顔の方が似合うって。な?」
「…うん、」


 曖昧に微笑んで、俯いた。
 何か合ったら、自分は彼らを見殺しにするかもしれない。この先、恐怖を感じた時、己の身に危険が迫った時――確実に、置き去りにする。己が助かるために。そう思えば、軽々しく笑ったり、喜んだり、出来る筈がない。けれど、己の一身上の理由で、彼らに心配をかけるわけにもいかない。栞はまた微笑んで、太一の服を引っ張った。


「…行こう。きっとヤマトくん、この先にいるよ」


 仲間と出会い、再び旅をして、この先何か合ったとしても、後悔などしないように。
 暫く歩いたところに、(暫くと言えど、だいぶ歩いた気がする。何せ山を登ったのだ)小さな木造の家があった。

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