065 絶対なんて無い




 淡い青色の光がガブモンを包み込み、デジヴァイスを媒体に、データが送られた。


「ガブモン進化ァ!!――ガルルモン!!」


 幾度となくガルルモンへと進化を遂げたガブモンの体は、既にどう戦うべきかを知っていた。大きく駆けだし、喉奥からこみ上げる炎を吐きだすように、口を開き「フォックスファイヤー!」――しかしデジタマモンの鉄壁の殻の前では、攻撃は諸共しない。


「デジタマモンは殻にこもれば、どんな攻撃も効果ないよ!」


 ゴマモンの叫びが、付近に木霊する。「そういうことなんだよ!」デジタマモンは頭突きを喰らわすよう、足を屈伸させ、勢いでガルルモンに突進した。ガルルモンの体はバランスを崩し、倒れてしまった。


「ガルルモンッ!!」
「助けてえっ!!」


 聞き覚えのある幼い声に、ヤマトはばっと振り返る。嘘だと思いたかった。しかしそこにはヤマトの思いに反して、デジタマモンの手下であるベジーモンに捕えられたタケルの姿が合った。


「タケルッ!!」
「これ以上暴れるとその子の命はない!…こいつもな!」


 怪我により痛む足は震えていた。それでもガルルモンは立ち上がったというのに、デジタマモンは嘲笑うかのように再び頭突きを浴びせる。
 タケルの助けを乞う声と、ガルルモンの低い雄たけび。ヤマトの瞳には絶望しか映らなかった。


(俺は――本当に、なにも、できない)


 誰を守ることも、助けることも、何もできない。無力で、弱いから、大切なものを守れない。何故、出来ないんだ。これも、仲間を信じなかったからなのか。その、報いなのか。――痛いほど拳を握りしめても、タケルの悲鳴も、ガルルモンの痛みも消えはしないというのに。


「…っ卑怯だぞ!」


 ――丈は、歯ぎしりをした。確かにヤマトは段々と冷たくなっていった。しかしそれは、自分が失敗したばかりだったからだ。そのせいで、大切な弟であるタケルを迎えにいくこともままならなかった。ヤマトの怒りはよく理解できる。最初から丈を見捨てることだって、ヤマトにできた。それでも彼は丈を助けるために、この場所に残り、一緒になって従事してくれた。
 彼自身、太一や栞が消えてしまったことで酷く落胆していたに違いないのに、残ったメンバーを思って、もう諦めろと言った。タケルを思って、探すのは止めた。それもこれも、ヤマトが仲間思いの良いヤツだったからだ。それを、彼の優しさにつけこんで彼を傷つけたピコデビモンや、目の前のデジタマモン、ベジーモンには怒りすら湧きおこる。丈はデジヴァイスを握りしめた。淡い白色の光が、デジヴァイスから漏れ出す。答えるよう、栞は目を瞑ってイッカクモンのデータをイメージした。

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