「ゴマモン進化ァ!!――イッカクモン!!」


 白い巨体が、よく太陽に映えた。とりあえずタケルを助けようと、イッカクモンの角がベジーモンの体をつつくのだが、突然の衝撃に驚いたベジーモンは掴んでいたタケルの足をギリギリと締めあげる。「うわああ!!」タケルから悲鳴があがった。
 栞は視界の端で丈が動くのが見え、思わず声を出す。いそいそと柱によじ登っているところからすると、上からタケルを助けようとしているのだろうか。


「…丈さ、」
「大丈夫さ。…タケルを助けてくる。アイツの手からタケルが離れたら、栞くん、タケルを頼んだよ」


 丈は栞の不安そうな顔に気づき、彼女の言葉を遮って優しく微笑む。――これくらいしか、ヤマトたちの役に立つことなどできはしないから。せめて、『友達』でいられる間だけでも、ヤマトのためになりたい。きっとその思いだけで、自分の危険など顧みずに行うのだ。


( 仲間。友情。友達――本当のこと言われれば、まだ良く分からない… )


 丈へと伸ばした手は、空を切った。彼はいそいそと柱をよじ登り、屋根を伝い、タケルの傍まで向かう。地面の上で戦うイッカクモンと丈は、今や一心同体だった。


( ヤマトくんは、丈さんを足手まといと言った。だから一緒に行きたくないって、言った。…けど、そんなこと言われても――丈さんは、ヤマトくんの負担を減らすためにタケルくんを助けようとしてる、――わっ、 )


 その時、ふ、と栞だけに風が吹き抜けた。生暖かくて、とても優しい風だった。色に例えれば、透明のように透けて見えるくらい純粋なものでもあった。


( …っ、あ、 )


 ぎゅう、と心が締め付けられるくらい、優しくざわついた。何かを求めているかのように、何かを探しているように。しかし、まだ、それが何の前兆なのか、栞は知らない。それよりも、と視線を丈に送る。不安定な中で、手だけを使い、タケルに近づく彼は、少しでも風が吹いたら落ちてしまいそうだ。


( 丈さん…っ )


 どうか無事で、済みますように。手を組んで、ひたすら、祈った。祈ることしか出来ない無力な自分だけど、平和を願うことなら出来る。
 丈はゆっくりとベジーモンの上空へと周った。脅しにより屈したイッカクモンが一歩後ろに下がったことで、ベジーモンが油断をした隙に、「うりゃっ!!」その体に飛びついた。確実に油断をし、自分に危害が加えられることはないと高をくくっていたベジーモンは、丈の重みに耐えきれず屋根から手を離し、ついでにタケルからも手を離した。行き先は言わずもがな、地面だった。

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