「空さん、僕たちのこと嫌いになっちゃったの?」
「ううん…」


 間髪いれず、空は首を横に振り、否定を示す。「そうじゃない…」言葉でもはっきりと告げるが、その声は些か震えを帯びていた。
 ふ、と太一の真横をピンク色のデジモンが過る。ピヨモンだった。おそらくバードラモンから力を使い切り、元に戻ったのだろう。彼女の横に立ち、そっと空を見上げる姿は、以前よりもお姉さんになっていた。


「空、話してあげたら…?」


 少しだけ首を動かし、空は悲しげに眼を細めた。太一もヤマトも、タケルも、ただ空の口が動くのを見守った。――やがて、空は、ゆっくりと話し始めた。
 栞は、少しだけ遅れて、その場に辿りついた。頭痛は時間を増すごとに酷いものへと変わっていて、動くことすら億劫だったのだ。空の姿を見えた時、彼女は俯いていた。何故だか出て行くことが出来なかった。「栞?」不思議そうに名を呼ぶイヴモンに首を振り、栞は木の影に隠れ、彼女の話を聞くことにした。


「私とピヨモンが、太一と栞を探しに行ったあの夜――」

―――…誰かいる!
―――…え?…あっ!

「私、見てしまったの。ピコデビモンが誰かと話しているところを…」
「何の話だったの?」
「私たちの紋章の話、」
「紋章?」
「そう。私たちの紋章にはそれぞれ意味があったの」


 紋章――それは、選ばれし子供たち――栞を抜いた7人が、サーバ大陸に降り立ち、探し求めたものだった。そしてそれぞれが手にしたそれは、デジモンに更なる進化の力を与えた。
 栞はペンダントを握りしめる。彼等に等しく与えられた紋章だが、栞にはなかった。彼女が守人であるがゆえに、必要のないものだと思っていたのだが、こうして見ると、やはり彼等と自分とでは真白いラインが間に引かれ、分断されているように思えた。


「例えば、太一のは勇気も紋章」
「勇気の、紋章?」


 その言葉に、太一は目を見開く。そういえば、紋章が光輝いたのは――確かに自分は勇気を出し、金網に触れた時だった。

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