069 強がるのは弱いせい




「バードラモンや!!」


 その名を呼べば、彼女は答えるように、翼を動かした。


「メテオウイング!!」


 大きな翼から、無数の炎が溢れだす。それは真っ直ぐ飛行を続けるフライモンの体へと降り注がれた。重く、大きな炎のかたまりは、避けることができない。すべてがフライモンの体に突き刺さり、彼の体は一撃で炎上しながら地上へと転落していった。


「バードラモンがいるってことは…」


 子供たちの顔に喜びが走る。バードラモンの姿を確認できたということは、近くに空がいるということだ。何故、バードラモンだけしか姿を見せなかったのか理由は分からないが、近くにいるのならば話を聞けばいいだけのことだ。


「空ー!!」
「あっ僕も!」
「俺も行く!」
「僕もー!」
「待ってよ、タケルー!」


 太一に続き、ヤマト、アグモン、ガブモン、タケル、パタモンは、バードラモンが消えて行った方へと、走り出した。


「待てよ、空!!」


 バードラモンが消えた方向へ、そしてデジヴァイスが示す赤い点を頼りに、空を追いかけていくと、一つの川が見えた。向こう側に渡るには点々と浮き出ている岩を渡るしか方法はない。視線を動かし前を見れば――空の姿が太一の目に飛び込んできた。
 何故逃げるのかは太一には分からない。それでもこのままでは埒が明かず、イタチごっこもいいところだ。そろそろ本気を出して捕まえなければ――太一は自分の瞬発力を利用し、岩を一気に渡ると草むらに飛び込んだ。空が走って逃げまどうのを横目に、彼女を追い越す。そして完全に追いぬいたところで、ばっと勢いよく前に飛び出した。行く道を塞いでしまえば、もうこっちのものだった。


「空…っ」


 荒い息を吐きながら、太一は空を見やる。彼女は困惑したように顔をゆがめ、直ぐに踵を返したが――そこにはすでにヤマトの姿があった。もう逃げる道などどこにもない。


「なんで逃げるんだよ!?」
「説明してくれよ、空!」


 空は何も言ってはくれなかった。話をすることを拒絶しているらしく、地面を見たまま太一たちの方を見ようともしない。


「空…」


 ヤマトが促がすように名を呼んでも、空は答えない。その時、少し遅れてタケルたちが現れ、少し後ろで立ち止まる。その表情は、悲しげに歪められていたが、頬を伝う汗は焦燥感を表していた。


「空さん…」


 タケルの声に、空は少しだけ肩を揺らした。

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