「私の紋章、光らないの…」


 空は、自分の手に握った紋章を見つめ、そう呟いた。


「私には、愛が無いから…!」
「でも、でも空はいつだって俺たちのことを考えてくれてたじゃないか!栞のことだって、いつも面倒見てて…!」

「違うわ!!望んでやったことじゃない!!先生に頼まれたから…っ!栞と仲良くすれば、成績あげてくれるって…っ!!仕方なくって…!!」


 鈍器で、頭を殴られたような鈍い痛みが襲いかかる。


―――…一番大切だと思っていたものが、嘘だと気づく。本当の『愛』など、存在しない。


 そのことが、今、分かった。


「空…、おまえ、!」


 どさり、と鈍い音が響き、彼らは急いで振り返った。そこには、栞がいた。悲しげな表情をしているわけでもなく、ただそこに立っていた。空は目を見開く。あ、と空の口から声が漏れた。 何か言わなければという念に駆り立てられるがしかし、何を言ってももう遅かった。


「栞、」
「――……た、」
「え…っ?」
「、やっぱり、 一人でいれば、よかった…」


 友達だと信じていたからこそ。仲間であると信じていたからこそ。鈍い痛みに襲われる。言い表しようもなく、苦しくなる。
心に、そっと、小さな黒いつぼみが芽吹いた。


「こんなに辛い思いなら、」


 一人は嫌いだった。けれど、二人以上も嫌いだった。
 二人が、ちょうどよかった。
 

「なにも、しんじなければよかった」


 そのつぼみは見る見るうちに光を吸収し、不気味なほど綺麗な黒い花弁を彼女の心に咲かす。散ることなく、どんどんと溢れ出る黒い感情が彼女の心に覆いかぶさった。
 ――ずきりと頭が痛む。なんだ。やっぱりそうなんだ。

 『光』が、原因なんだ――。

 ヤマトは急いで彼女の腕を掴んだ。このまま離れてしまってはだめだ。いつしかの経験が、それを語った。しかし栞は強い力で掴まれた手を振り払い、荷物も置き去りに、森の奥へと消えて行った。「栞ッ!!」誰かの声が、聞こえる。まるで、他人事のように感じていた。暗い闇が、目の前に降りかかる。目の前が、赤く染まった。


17/07/27 訂正
11/04/18

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