「空」
栞は彼女の名を呼んだ。そうして、傷だらけの頬をゆがめ――微笑んだのだ。瞬間、空はわっと泣き崩れた。
「そ、空…あの、…空…泣かないで、」
泣いて震える空の肩に手を置いて、どうすればいいのかと、視線を上にあげる。太一と目が合った。彼は、ニッと笑った。的確な答えをくれたわけではなくて、栞は慌てる。
「空、…空、」
「ご、め、ごめんね、栞…ッ」
「え…?」
「あなたのこと、傷つけてしまったわ…ッ!あんなこと、仕方ないなんて…っ思ってもないこと…っ!!」
「空…。もう、大丈夫だよ。私こそ、信じられなくて、ごめんなさい」
いつもとは立場が逆転している。泣き続ける空を、栞が慰めるかのように、抱きしめた。
「でも。私は空のことが大好き。どれだけ悲しんだって、傷ついたって――その思いは、変わらない」
―――…真田さん!
「だって空は、いつも、私を照らしてくれる」
―――…栞ちゃん!
「空が居るから、私も、居られる。空がいなかったら、私、きっともっとずっと前に、ダメになってた」
―――…栞。
「でも。空の愛情が、ずっと、そこに在ったからここまで来れた。だから――」
―――…栞!
「大好きだよ、空」
いつだって思い出すのは空の笑顔。苦しい時、何度も空の笑顔が、栞を引きずり上げてくれた。空は「私も…」小さく呟いた。そして、ぐしゃぐしゃの顔で、やっぱり笑った。
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