―――…この世界を守る基盤となって、


 やがて聞こえた声は、自分と同じものだった。


―――…朽ちゆく定めだとしても、私は、構わない。


「栞!どうしたの?ボーっとしてたわよ?」


 目を瞬かせると、そこには、先ほどと変わらぬ景色、そしていなくなっていたはずの空の姿が在った。少し視線をずらす。しかし、そこにはもう少女はいなかった。
 「ごめん」呟いた。「ちょっと、ぼんやりしてて…」空に言われたとおり、そう返した。


「あれ?」
「どうした?」
「誰か、来る!」
「ええ?」


 ゴマモンはそう言って、鋭くした目つきで振り返る。物音には敏感らしい。子供たちはゴマモンに習って振り返り、壁に隠れながら覗きこんだ。――大勢のデジモンの影がある。そしておおよその見当がつく。ヴァンデモンが集めた兵隊たちなのだろう。


「出発するんだ…」
「だったら後をつけましょう!」
「その通りだ!――行くぞ!」


 こっそりとその後を付ける彼等が辿りついたのは――空間の歪みのせいで、多少戸惑ったが――薄暗い城内を一段と表した地下室だった。彼らの目に飛び込んできたのは、正にゲートが開いていたところで、ヴァンデモン本人も馬車に乗り込もうとしていた――行かせてはだめだ。彼等を行かせては、日本に住む大切な家族が!8人目の選ばれし子供が!


「待て!そうはさせないぞ!!」
「ようやく来たか。だが遅すぎたな。この歴史的瞬間をよく見ておけ!」
「ふざけるな!!」
「生憎今の私にはお前たちの相手をしている暇はない―――ピコデビモン!」
「ははっ!!」


 上空を飛んでいたピコデビモンは名を呼ばれ、すぐにヴァンデモンに元へと下り、恭しく頭を下げた。「構ってやれ」そう言い放ち、彼自身は馬車の中へと入り込む。「かしこまりました!」役目を貰えた喜びからか、ピコデビモンの声は張り切っていた。


「待てッ!」


 追いかけようとする子供たちの前に立ちはだかったのは、ピコデビモンやヌメモンたちだった。「懲りずにまたやる気か!?」思わず舌打ちが漏れる。


「今度は前みたいにいかないぞ!――先生、お願いします!」
「おうよ!」


 返事をしたのは、他のデジモンに比べたらひと際大きく、髭をたくわえ、サングラスをかけたまるで親父のようなデジモンだった。彼は先生と呼ばれていた。とすると、彼らが募っていた兵隊のトップに立つものなのかもしれない。


「ここから先は通せんぼーっ!」
「っ邪魔するな!!」
「野郎ども、かかれーっ!」

「「「おう!!」」」

「君たちとは戦いたくなかったけど…時間がない!」
「許してちょうだいねっ!」


 そうこうしている間に、ヴァンデモンを乗せた馬車が飛び立っていた。栞は思わず一歩前に出る。行かせてはだめだ―これ以上誰かを傷つけさせてはだめだ――!カッと彼女の体が光を帯び、子供たちのデジヴァイスからも光が漏れだす。

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