「あああ!ワテのせいかも…!ワテがさっき天井壊したから…!」
「とにかく、通路はふさがれちゃってる!」
「…もう、後には戻れないってことか…!」
「それだけじゃないわ!ここだってもうすぐ…!」


 慌てる子供たちの中で、一人、丈だけが妙にすっきりとした表情で立っていた。今なら分かる。自分になくて、彼にあるもの。それは些細なものかもしれないが、それでも大きなもの。


「太一」


 そう、彼。
 八神太一には、幾度も助けられた。


「なんだ?」
「僕はお前に任せる」
「な、なんだよ急に」
「無責任で言ってるんじゃないぞ?兎に角僕は太一を信じる!」
「ええ?」


 急に言われた言葉に、太一は頭がついていかず、目を何回も瞬かせた。その横からずいっと身を乗り出したのは、腰に手を当てたヤマトだった。


「俺もだ。リーダーの決断に従おう」
「おいおい…いつから俺はリーダーになったんだよ」
「お前がいなくなった途端、俺達はバラバラになった…」


 太一と栞が黒い渦の中に消えた時、一人、一人と、道から外れて行ったしまった。自分の心にも焦りが生じ、たくさんのものを傷つけた。ぐっと太一の肩を掴み、言い聞かせるようにヤマトは言った。


「そんな俺たちを再び集めてきたのはお前じゃないか!」
「それは、たまたま…」
「そんなことどうだっていい!」
「ミミちゃん…!」
「なんとかしてお家に帰して!」


 ずずず、という地響きが彼等の体を揺さぶる。ミミは、俯いて震えていた顔を持ち上げ、にっこりと笑った。



「なんてあたし今まで言ってたけど、それじゃダメなのよ、きっと。もうわがまま言わない!」
「そうね。私たちが変わらないと何にも変わらないわ!」
「だから、僕は仲間を信じるんだ!」


 子供たちに溢れているのは笑顔だった。太一は太陽。なくなってはならない、欠けてはならないもの。そして、自分たちの道標なのだ。いつだって前を走り、自分たちを引っ張ってきた。


「みんな…」
「タケルもそう思うだろ?」
「うん!もし別の世界に行ったって、みんな一緒なんでしょ?だったら僕、怖くなんてない!」
「そうだな!」
「光子郎くんは?」
「はい。僕は前から太一さんを信じてます!」


 全員が、笑顔で。
 そして、栞は柔らかく、微笑った。


「――私も、八神くんを、信じてる」


 もう誰も信じることなどできないと、幼き日から心に染みついていた思念を、彼はぶち破ってくれた。彼の心はいつだって勇気に満ち溢れていた。誰もが彼によって救われた。彼は、我々の絆そのものだ。


「八神くんの勇気が、世界を救うと思うから」


 その時、眩く、そして優しい光が、灯った。そういう栞の声は少しばかり、大人びていた。語調も大人びていた。―――彼女は、まさしく『守人』だった。


「“私たちは、あなたを信じてる”」


 穏やかに笑うその顔は、まるでいつか見た青空のように美しかった。


17/07/27 訂正
11/06/07

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