「どうして、僕たちに何も言わないで行ってしまったの!?」
「だ、だって、わ、わたし、」
「勇気出したとでも思った?これが勇気だとでも思った?…違うよ、これは勇気じゃない、無謀っていうんだ!!」
「……っ!」


 栞の瞳から、涙がこぼれ落ちた。だが、彼女は今の状況を分かって等いない。呆然とイヴモンを見つめ、涙がこぼれていることも気づいていないらしかった。イヴモンの言うことが確かだからこそ、空たちは何も言わなかった。否、言えなかった。


「ねえ、分かる?ねえ、君は自分が守人だってちゃんと自覚してるの!?僕たちがいくら君を守ろうとしても、君がそんなに無鉄砲じゃ、守ってあげられない!!もっと自覚してよ…!君は守人なんだ…!みんなが、君を狙ってるんだ!!君がやつらに捕まったら、君は闇に呑まれる!それはこの世界の滅亡と同じことなんだぞ!」


 栞は、これが勇気だと思った。確かにそれは勇気であったし、大きな変化でもあった。しかし、栞は気づかなかった。太一たちが来るのが遅かったなら、彼女はおそらくエテモンのもとへと連れ去られていたであろう。気づいてしまったからこそ、涙は止まらなかった。


「ごめ、ん、な、さい…」
「…もウ泣カないデ。僕モ、言イ過ぎたカラ」
「……ッ」


 いつもだったのなら、空は栞を抱きしめ、慰めていた。しかし、ここではあえて抱きしめることなどしていない。彼女が、それを望んでいないことくらい、空は知っていたのだ。だからこそ、コロモンを助けることを最優先に考え、全員を助け出した。


『あ〜、もしもし』


 その時だった。突然、大きな声が、あたりに響く。
 栞は、泣いていた顔を持ち上げ、鼻を啜りながら辺りを見回した。そこで、彼女は大きなサル型のデジモンと目があった。身体が透けていることから、あれは立体映像なのかもしれなかった。


『守人、選ばれし子供たち、聞こえる?』

「エ、エテモンだ!」
「エテ、モン…」


 ガジモンたちが、しきりに呟いていた名前。栞は真っ赤に腫れた目を大きく開けて、ぎゅっと胸元を押さえた。その手を、イヴモンのふわりとした毛が覆う。


「イヴ、モン…」
「僕たちが、守るよ。絶対、」


 いつものような笑みを、イヴモンは浮かべてくれた。栞の心の中で、何かが消えていく。『不安』という二文字が、一気に消え去った。

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