042 煙りに消えていく




「うわぁ、ローマ時代のコロッセオみたいだ…」
「それって何ですのん?」
「昔の闘技場だよ」
「見て見て!オーロラビジョンもある!あ、ゴールがある!サッカー場よ!」


 円形の、闘技場。
 そこに子供たちは導かれていた。

 そこに待ち受けるものが何かも知らずに。



「さあ!手分けして紋章を探そうぜ!」
「ふ、ふう〜…」


 やる気十分な太一の横で、アグモンは切なそうなため息をついて、ごろりと横になってしまった。栞はその横に膝をついて、アグモンを見てから、太一を見上げる。


「…八神くん、アグモンを少し休ませてあげて」
「何でだよ。ほら、アグモン起きろって!」
「ッ、八神くん!」


 それは、いつもの栞では到底聞けないような音量だった。太一は目を丸くして、それから罰が悪そうに顔を逸らした。自分のせいで機嫌が悪くなってしまったと思ったのか、アグモンはおろおろしながら太一を見つめる。もちろん、動くことはできないから、寝たままの状態でだ。


「ご、ごめんね、太一…」
「いいよ、別に…。その代わり、しっかり休んでおけよ」


 自分は上手く笑えただろうか。太一は頬が引きつるのを感じたが、それを誤魔化すようにアグモンの頭に手を置いた。


「みんなも休んでいていいよ。僕とゴマモンで探すから」
「栞と僕モ手伝うヨ。紋章が近クにあれバ、栞が分カると思うカラ」


 ぴょんぴょん跳ねながら言えば、丈はにっこりと笑った。


「ああ、ありがとう」
「俺も探す!…あと何があるか分かんないから、栞は丈に着いていけよ。俺はあっちの方を探すから」
「う、うん…」


 モヤモヤした思いを隠しながら、栞は丈と一緒に紋章を探すため、歩き出した。見回しながら歩くがとくに何の反応もない。それは丈のタグも同じだった。
 他の子供たちがサッカーボールを見つけて遊んでいるのを栞は遠目で見て、小さく笑った。先を歩いていた丈が後ろを振り返り、彼は驚いて目を開けた。栞のその顔が、本当に嬉しそうだったのは、丈の見間違いではない。少しだけ赤くなった頬を隠し、丈は栞のところまで歩み寄った。

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