「ど、どうしたんだい、栞くん」
「全然違うはずなのに、」
「うん?」


 やっぱり彼らを見る瞳が優しかった。違う誰かを見ているようで、丈は少しだけ、目をぱちぱちさせた。


「…まるで、一馬たちがサッカーやってるみたいで」
「えーっと…一馬っていうのは…」
「あ。えっと、いと、こ…じゃない。ええと、『兄』です。…サッカー、すごく、上手で」
「ああ、そういえば、一個下に凄くサッカーが上手な子がいるって聞いたことがあるなぁ。将来有望とか何とか。真田一馬くん。栞くんって双子だったんだね」
「ええ、と。はい、 『兄』です」


 それだけ言うと、栞は顔を下に向けた。表情は伺えない。しかしおそらく、彼女が感じているであろう感情は――ただ会いたいという気持ちだけだろう。


「栞くん、」
「…丈さん、紋章、探しましょう」


 そんな思いを隠すように、彼女は小さく笑った。その笑みを見た後では、丈は何も言えなかった。
 闘技場の最奥にあったサッカーゴールの付近で、丈は立ち止まる。タグが微少ながら、反応を示したのだ。


「ここ?うーん…どこにもないよ、丈」
「でも…この近くだと思うんだけどな…」
「…栞はどウ?」


 頭を抑え、神経を集中させる。ここにきてから、身に付けたことだった。頭の中にいくつもの情報が入ってくる。その中に、うっすらとだが丈の紋章が現れた。


「…うん、ここら辺だと思う。でも、はっきりとは…」
「そうだよな…」


 その時、栞たちの耳にラッパで吹いたような、軽快な音楽が聞こえてきた。子供たちが一斉に振り返り、一瞬の内に身構える。


「オーホッホッホッ!…アチキってグレート!」


 オーロラビジョンの中に、エテモンの姿が映し出された。

back next

ALICE+