044 いつまでたっても暗闇




 頭が痛くなるほどの強い力が、グレイモンに降り注ぐ。グレイモンは、自我が消えうせていくのを肌身に感じていた。やめてくれ、と声なき声が漏れる。それでも染まっていく身を、ただただ見守っていくことしかできなかった。酷い激痛がグレイモンを襲った。揺れる意識の中で、グレイモンは、ただ一人大切なパートナーを視界に入れた。

 たすけて、太一。
 これは僕じゃない。

 太一。

 たすけて、太一。
 誰も傷つけたくないんだ。
 みんなを、守りたいんだ。

 栞が守る世界を、守りたいんだ。


 なのに、体が言うこと聞いてくれないんだ。
 これは僕の体じゃない。僕の意思じゃない。


 太一。

 ―――たすけて。


 新たな進化を遂げたグレイモンは、勇気ではなく、子供たちに恐怖を与えた。骨のみで構築された体が、この地に降り立ったことを喜ぶがごとく、軋んでいた。


「こ、これは、どうなってるんだ!?」
「…あれは、スカルグレイモン…。グレイモンが、暗黒の力を得て進化した形態」


 デビモンとの決戦前夜の時と同じような栞は、いつもよりも冷えた瞳でスカルグレイモンと呼んだデジモンを見上げた。ヤマトはその瞳を見て、驚いたように目を見開いた。

 赤かった。

 栞の灰色のきれいな瞳は、いつの間にやら赤く染まっていた。充血とかそういうレベルの染まり具合ではない。瞳自体が、赤なのだ。そして、冷たかった。


「スカルグレイモンには、自我がないの。…ただ闘いだけに執念を燃やし、すべてを破壊し続ける…」
「そ、そんな…!大変だ…!間違ってとんでもないものに進化してしまったんですね…」
「強いって、ことよね…?」


 不安気なミミの肩を安心させるように空は撫でた。先ほどの栞の説明を聞いていれば、その答えは明白であろう。


「スカルグレイモンは完全体だよ」


 赤い瞳をした栞は、今まで以上にはっきりとものを言った。
 スカルグレイモンは何を見ているか分からない瞳を轟々と輝かせ、グレイモンをいとも簡単にとらえ、まるで楽しんでいるかのようにスクリームに向かって投げ捨てた。それとほぼ同時に、背中のミサイルを発射した。ドオンというけたたましい音が響き渡り、スクリームは吹き飛んだ。

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