「……あ、」


 ただただ、太一は茫然と立ち尽くしていた。
 やっと、進化したと思った。進化させるために無理なことも強いた。
 その結果が、これなのか。


「スカルグレイモン…オマエ、本当にグレイモンが進化したやつだよな…?」


 ぐりん、とスカルグレイモンの首が、後ろに回る。その瞳は太一をとらえた。パートナーである自分を攻撃するはずはないという過信と、恐怖で、足が言うことを聞かない。


「ばか!逃げろ、太一!!」


 ヤマトの叫び声に、ガルルモンが飛び出した。一直線にスカルグレイモンに体当たりするが、反動で吹き飛んでしまった。体の大きさ、力量、すべてにおいて差がありすぎる。次ぐにバードラモン、続いてカブテリモンがスカルグレイモンに突進したが、まったくもって歯が立たない。三対一だというのに、スカルグレイモンは余裕綽々だった。


「どうすればもとのアグモンに戻ってくれるんだ…!?」


 栞は、目の前が揺らぐ感じがした。深い奈落の底へと引っ張られる。


「だめ、」


 頭を振り、中にいるもう一人の自分を追い出そうとした。今のスカルグレイモンがあるのは、…もちろん自分のせいなのだ。黙って、また一人だけ気絶しているわけにはいかないのだ。ゆっくりと自分を確立させた。私はここにいる。ここにいる私だけが、私なのだ、と。 よく、分からないことだが、自分自身に言い聞かせた。


「おねがい」


 赤い瞳はもう消え失せた。
 今は元通りの灰色の瞳が、スカルグレイモンをとらえる。


「――もとに戻って」


 それは小さな祈り、そして願い。
 自分のせいでスカルグレイモンへ進化してしまった。
 再びデータを書き換えてあげなければならない。

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