「大丈夫ダヨ、栞は僕が守るカラ」


 その言葉に、いつも安心させられる。そんな他愛もない言葉に、私はいつも助けられている。


「たぶん、さっきのやつはコカトリモンダ」
「コカトリモン…?完全体、なの?」
「いいヤ、成熟期ダヨ」
「じゃあ、」


 そんなに躍起になることはないだろう、と栞が頬を緩めた時、イヴモンは体全体をふるふるとゆすった。否、ということだろうか。


「確かにみんなが進化すれバ、容易いことはとは思ウ。…でモ、ちょっとやつのわざは厄介なんだヨ」
「厄介…?」
「やつの必殺技、″ペトラファイヤー″は石にさせてしまウ。…だカラ、進化する前ニやられたラ…」


 ぞっと、背筋が凍った気がした。
 どうしてコカトリモンはこの部屋を覗かなかったのかが少々腑に落ちないが、それよりも他のみんなが心配だった。とくにコロモンは成長期になってすらいない。ベッドから急いで飛び降りると、イヴモンはやれやれ、といった様子で私の肩にとまった。


「無茶をスるのモ、君の専売特許だネ」
「…ごめんね、」
「謝ってほシイわけジゃないヨ。たダ自分の身が危険だト感じたラ、すぐニ逃げるコト。イいよネ?」
「うん、」


 そう言って、私は笑った。なんだか久しぶりに笑った気がして、そうしてくれたイヴモンや空に、心の中でありがとうとお礼を言った。


★ ★ ★




 船の先端に追い詰められた空とミミは、胸元を抑えながら、追いかけてくるコカトリモンを振り返る。頼みの綱である他の子供たちは、熱い太陽の下で干物にされかかっており、そのデジモンたちは石にされていた。


「そ、空さん、どうしよう!」
「落ち着いて、ミミちゃん!…出来ることはひとつしかないけど…、」


 空は自分の手に持ったデジヴァイスを見つめた。栞が不安定な今、進化することは可能なのだろうか。一人で考えさせたが、答えは見つけることができたのだろうか。…いや、あの子ならできる。そう空は、信じている。ぎゅ、とデジヴァイスを握りしめた。


「空っ、ミミちゃんっ」


 信じていれば、願いはかなう。初めて会った時イヴモンにそう言われたと、いつだったか栞がうれしそうに言っていたのを思い出した。 空は、こんな状況にも関わらず、ほっと頬を緩める。


「おみゃあが守人か!?」


 すかさずコカトリモンが後ろを振り返り、栞を視界にいれる。 ああ、栞がやられてしまう、 …そんなのだめだ、栞は私が守る!


「ピヨモン、進化よ!!」
「ピヨモン進化!―――バードラモン!!」


 翼をばっと広げて、バードラモンは空へと舞い上がった。コカトリモンはその光景をうらやましそうに見つめていた。彼の退化した翼では、大空を羽ばたくことができないからだ。何やらうっとりとした視線を送るコカトリモンは、隙だらけだった。その間を縫って、バレないように栞が空とミミのもとへとやってくる。栞は空の横に立つと、いつものような優しい笑みを浮かべて、ありがとうとつぶやいた。空は首を横に振り、それからバードラモンは見上げた。

back next

ALICE+