047 ぼくらは少し背伸びしすぎた
一人になり、空に言われた言葉を復唱した。 栞は一人じゃない。仲間がいる。 友達が、傍にいてくれる。栞だけで解決できないことは、みんなで解決すればいい。 そんな単純なことなのに、栞はどうして気付かなかったんだろう。否、応えはしっている。気づこうとしなかった。どれだけ仲間を得たとしても、どれだけ深い仲になったとしても、″みんな″で一緒に何かをすることに慣れたくはなかった。
だって、悲しすぎる。
でも、もう、いいのかな。
私、もう、いいのかな。
みんなのこと、大好きだって、思うから。
もう、いいよね。
ずっとずっと一人じゃない証がほしかった。 置いていかないでくれる、証がほしかった。
でも、みんなは、私のほしいものをすべてくれるから。
信じたいって、素直に思えるんだ。
★ ★ ★
「栞、」
イヴモンの声に、私はそっと顔をあげた。空との話が終わったらしく、少しだけ苦笑を浮かべたような、曖昧な表情をしていた。私が手を伸ばせば、イヴモンもそれに応じてくれた。 ああ、暖かい。この暖かさに慣れてしまった以上、もう離れることはできない。
「考えた、よ」
「答え、出たミタいだネ」
「…うん。馬鹿みたいに、一人で悩んじゃ、いけないんだね」
「栞にハ、ミんなガいるンだモン。一緒に考えナきゃ、損だヨ」
「うん。…あのね、やっと、分かったの。だから、もう平気。私、みんなが大好きだから、…信じる」
口にすれば、思ったよりも胸の荷物の縄がすっとほどけた。
それはどれほど簡単だったのだろう。単純だったのだろう。この答えが見つけ出せなくて、私はいつも迷っていた。信じることができず、一人で抱え込んで泣いていた。だからその先の光にたどり着けなかった。…どんな時でも。 あれ…。どうしたんだろう、…頭が。
「栞…?どウしたノ…?」
「…、」
ぐわん、と大きく頭の中が揺れる。しかし思ったよりは衝撃は少なくて、私は曖昧に笑みを浮かべ、イヴモンに首を振った。 そんな、時だった。バタバタという忙しない音が廊下から聞こえてきた。他のみんなが走りまわっている音かと思ったが、それにしても足音の量が多すぎる。首をかしげてから、イヴモンを見た。
「どうしたんだろ…」
「…待っテ、静かニ」
「…?」
彼の体全体が口に押し付けられて、私は静かにせざるを得なくなった。シーンとした部屋の外から、声が聞こえてきて、私は更に息をひそめた。
「本当に守人はここらへんにいるがや?」
「ヌメ〜」
「エテモン様に通信できにゃあで…ワシが守人を捕みゃえることができりゃあ、エテモン様も喜ぶがや!コカッ、コカッ!」
足音がだんだんと遠ざかると、彼は体を私から離し、眉を寄せていた。しかし私の不安そうな顔を見たのか、すぐにいつものような笑顔に戻った。
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