036 この青はいつかはじける
ホエーモンの上は、いかだと違って、快適であった。落ちる心配もないため、酔いやすかったミミも栞も、すっきりとした顔をしている。
「気持ちいいー!」
「イカダに乗って行くよりよっぽど快適ですね」
「これなら船酔いしなーい!」
とくに上機嫌であったのはミミで、先ほどまでは鼻歌を歌いながらパルモンと踊りを踊っていた。しかし途中で危ないと空に叱られたため、それも終わった。
「あとはデビモンが封印したっていうタグと紋章が見つかればなぁ…」
「デビモンですって?」
「な、何か知っているの?」
「タグと紋章、というものはよく分かりませんが…。前にデビモンが、"守人が…"と呟き、海の中のある場所に何かを置いていったとかいう話を聞いています」
「…そウ」
「それで、その場所は!?」
思いも寄らなかった有力な情報に飛びつかないわけもなく、太一は思わず伏せってホエーモンに聞いた。
「サーバ大陸に行く途中にあります。…皆さん、またしばらく私の身体の中に入っていただけますか?」
ホエーモンに連れてこられたとある場所とは、洞窟の中だった。その中は薄暗く、少ししか明かりが灯されていないため、栞は自然と温かさを求めて近くいた丈の方へと寄った。
「私は先へは進めませんので、ここでお待ちしています」
「ああ、ありがとうホエーモン」
「すぐに帰ってくるわね!」
まるで中からコウモリでも出てきそうな雰囲気に思わず足が竦むが、それでも先へ進まなければ意味がない。臆病者な栞は、前も後ろもイヤなので、常に真ん中をキープするようなペースで歩き続けた。とは言っても、歩く順番は毎度のことなので、誰も何とも思っていないようだった。先頭を太一が歩き、最後尾をタケルを連れたヤマトが歩く。ヤマトの前を丈が、太一の後ろを光子郎が。真ん中を女性陣で固めれば、いつものフォーメーションのできあがりだ。
「あれは…?」
歩き続けること数分。おそらくこの洞窟の最奥層であろう場所まで来た。なんとそこには目を見張るものがあった。
「コンビニだ!」
そう、こんな場所にあるはずもないコンビニがそこにあった。子供たちが駆け寄ろうと一歩足を踏み出した瞬間、急に地面が割れ始めた。
「な、なんだ!?」
「ドリモゲモン…だ!」
鼻にある鋭いドリルを回しながら、モグラ型のデジモンが地面から姿を現す。子供たちは慣れからか、すぐに戦闘態勢を取った。
「…黒い、歯車…」
そしてこれも慣れからか、栞はすぐに黒い歯車を見つけることができた。
「ま、まだあったんじゃないか!」
「べつにあれが最後だって確証があったわけじゃないだろ!」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ!デビモン様の命により、ここには立ち入らせん!出て行け!」
『デビモン』。その名を聞いて、栞は頭が冴えていくのを感じた。
―――…ありがとう。
デビモンの最後のあの笑み。
それを忘れることが出来ないのは、心から悪者だと思えなかったからかもしれない。
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