「ク、クワガーモンです!」


 初めてこの世界に来た時に闘った相手。
 いや、ここにいるクワガーモンはその時のクワガーモンの数倍も強い。


「ベビーフレイム!」


 アグモンが太一を守ろうとベビーフレイムを放つが、それは小さな音とともに、クワガーモンの体に当たって消えた。クワガーモンにとっては痛くもかゆくもなかった。


「アグモンっ!」
「アグモン、進化しろ、進化!!」


 『進化』という言葉に、太一の瞳が揺らいだ。

―――…できない。だって、進化したら。

 あの時の恐怖がよみがえってくる。太一の心を、恐怖が覆う。


「もし、今度も進化が失敗したら…」


―――…グレイモンになれなかったら。 また、太一を傷つけてしまう。


「アグモン、」


 栞は耳元を抑える。遠くにいるはずのアグモンの声が、すぐ傍で聞こえた。それはひとつの恐怖だった。アグモンは、太一は、勇気を出すことができない。
 しかしクワガーモンが空気を読むはずもなく、威嚇するように雄たけびをあげた。


「う、うわああ!」


 何もできないアグモンに、自分の身を守ることはできなかった。


「何やってんだ!!シザーアームズにはさまれたらおしまいだぞ!!」


 ゴマモンの叫びは、アグモンも分かってはいる。ただ、どうしても進化できない。進化することが、怖くて仕方がない。
 シザーアームズがアグモンに襲いかかったとき、太一は自らの瞬発力を生かし、アグモンの体に覆いかぶさった。そんな太一もまた、勇気が出せなかった。

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