049 覚悟はあるか




「まだぁ…?」
「もう少しだッピ!」


 先ほどから同じようなやり取りを何回も繰り返しているが、なかなか目的地にはたどり着かない。少しだけ流れてくる汗を手のひらでぬぐい、バックの中でバテているイヴモンに苦笑する。ほんとうに、熱いの苦手なんだな。体が真っ白だから、冬の方がよく似合う。きっと雪の中でたたずむ姿が絵になるだろう、と考えると、暑さも少しだけ吹き飛んだ。


「着いたッピ!ここだッピ!」
「ここって…」


 そこは今までと変わらない砂漠地帯だった。どこかに秘密の入り口でもない限り、今までと何も変わらない。みんなが一斉に不満気な顔をした。


「何もないじゃない!」


 一番最初に不満が爆発したのがミミちゃんだった。けどピッコロモンは特に何も言わず、にんまりと笑うと、持っていた杖を振り回し始めた。…ちょっと気が狂ったのかなって思ったのは、内緒だけど。


「ルフォルパ・ラフォルポ・ショニカッピ!トルカラ・トルカル・シタカッピ!」


 くるくる回る杖に目を奪われていて気付かなかったが、ピッコロモンが呪文のようなものを唱え終えたとき、先ほどまで砂漠が広がっていた場所に鬱蒼とした森が見えた。びっくりする私たちの反応を十分楽しんだのか、ピッコロモンは再びにんまりと笑った。


「驚くことはないッピ!私の結界の中だッピ!…さあ、ついて来るッピ!」


 ピッコロモンのあとをついて結界の中に入れば、外から見えた以上のジャングルが目の前に現れる。ずっと砂漠続きだったため、草木がとても懐かしかった。心なしか、みんなの表情もうれしそうに見える。


「ね、ねえ、後ろ見て!」
「今度はなんだ?」


 後ろを歩いていた空が後ろを振り返り、焦った様子で自分の前にいた丈さんの袖を引っ張った。丈さんは首をかしげて同じように後ろを向いて、急に奇声を発した。みんなが驚いて後ろを振り返れば、遠くにだが、トレーラーのようなものが見える。


「あれはエテモンのトレーラーだッピ!でも心配することはないッピ!向こうからは結界の中は見えないッピ!」
「ソれ…信用しテもいいネ?」
「当たり前だッピ!守人を危険な目にあわせられないッピ」
「なライいンダ。…君が栞に対シて忠実なのハ十分知っテるからネ」
「だッピ」


 イヴモンの言ったことが理解できず、首を傾げれば、なんでもないよと目線だけで返されたので気にしないことにする。
 会話を楽しみながら、私たちはジャングルの中を突き進んだ。いつしかジャングルから石場に代わり、目の前に長い階段が現れた。…もしかしなくても、これ。


「この上が私の家だッピ!」
「この上、って…」
「何よ、これー!!」
「こ、これを登るんですか…?」


 思っていたことを光子郎くんに言われて、どきんとした。ま、まさか、これ、本当に…?た、体力持つかな。
 誰かが現実逃避のように「何段あるのかなぁ…」「ばか、数えるだけ無駄だ…」という会話をしていた。たぶん、タケルくんとヤマトだと思うけど…。


「修業はもう始まってるってわけ!?」
「そういうことッピ!」
「へへっ、こんなもん楽勝やがな!なぜならワテ、空が…」
「言っとくけど、今後の修業中は空は飛ばないでほしいッピ!楽することばかり考えないで、ピッピと登るッピ!」


 華やいでいたテントモンの顔が、一気に脱力した。飛べば一発なのに、これをいちいち登らなければいけないとなると結構な体力を浪費する。…登れるかな…。登り始めたみんなの後を追いかけるように、重たい足を持ち上げて一段登ろうとした時、かたい何かで腕をつつかれた。驚いて横を見れば、ピッコロモンが首を振って、私から見たら左手を杖で差した。

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