「なンダか煮え切ラないネ」
「ほんと、なんでもないから…」

―――…お兄ちゃんの声みたいだったなんて、ただの気のせいだよね…?

「ン、…あ、栞、アの洞窟だヨ」


 たぶん、栞が何か違和感を抱えているのは、イヴモンは気づいている。彼は鋭いから。…でも、あえて追及してこないのは、いつものことだった。だからここにいるのは、本当に、イヴモンだ。


「栞、」
「う、うん。聞いてるよ」
「ボーっとすルノもいいけド、せッかく与エられタ機会ナんダシ、ちゃンと身にツけヨうネ?」


 ため息を洩らしながら、イヴモンは苦笑した。ごめん、と呟いて、特訓をするという洞窟を見た。轟々と中から風が吹いてくるのが分かる。暗い洞窟に、足がすくむ。


「僕がイるかラ。行こウ、栞」
「…」


 心が強くなれば、もっともっとみんなを守れるだろうか、と考えてみた。 たとえば、これから先、今の彼らではかなわない相手が現れたとする。己の心が強くなれば、みんなを、大切な友達を守れるのだろうか。


「栞、」


 いつも、守られてばっかりで。
 だから、ほんとうはね、 私も守りたかった。

 私も一緒に闘いたかった。

 いつも、見てることしかできなくて。
 いつも、何もできなくて。

 私も、みんなと同じところに、立ちたかった。

 自分の役目が分からないわけじゃない。
 何度も言われたことだから、理解はしてる。

 でも、でもね。
 後ろで守られてるだけなんて。
 見ているだけなんて。

 そんなの、いやだった。


「…守れる、かな」
「エ?」
「心、強くしたら、守れるかな、」
「…きっと。ううん、絶対。君の心が、すべてを守るから」


 目の前の洞窟の中から、光が見えた。暗かった洞窟に、暖かい光が差し込んでいた。
 ああ、この洞窟は、栞の心自身なのかもしれないと思った。暗かったのは、栞が恐怖していた故。でも、今は違う。 一人じゃ、ないから。


「…行こう、イヴモン」
「うン、栞」


 がんばるよ、 みんなを守るよ。
 私には、みんながいるから。

 だから、がんばるよ。


17/07/26 訂正
10/05/11 - 10/11/27 訂正

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