「心は、すべてなんだね」


 先ほどのことを思い出す。
 あれがきっと、栞に『心』を教えるための特訓だったのだ。あの出来事は、単に些細なことだったけれど、栞にしたら第一歩だから。


「私に必要な勇気は、きっと誰かを守って、そして許すこと。それが…守人なんだなって気づいた」
「…そウ」


 おそらく、イヴモンには訳のわからない話かもしれない。それでも、イヴモンはただ優しく笑ってくれていた。


「…ジゃあ心の特訓は、終わっタッてコとだネ」
「うん、」
「案外早カったッテ言ってモ、タブン、洞窟の外とハ時空が違うカラそろそロ行った方がいいネ」
「時空、が?」
「おソらく栞が飛んだ場所ハ、過去ダ。……会ったンデしょ?彼ニ」
「……!」
「栞が考えテいる通りだヨ。彼は狩人。ソして君の兄。人間名は確か―――シキ…うん、そウ、志貴」


 イヴモンはもう一度優しく微笑む。


「詳しイことハ僕モよく知らなイけド…でモ、こレだけハ確かだヨ」
「…?」
「狩人は守人ヲ、ソして志貴は栞を。守ッテいタってこト」
「……ぁ」

「…サあ、行こウか。…少しダけ、遠回リしてネ」


 いつの間にか頬を涙が伝っていた。 今日は、泣いてばかりだな。 そう思いながら、先を歩くイヴモンに置いていかれないように、足を進めた。潤んだ視界で、地面が歪んで見えた。

 今日でしばらく止めにするから。
 今日だけは、 泣いてもいいかな。


17/07/26 訂正
10/05/17 - 10/11/27 訂正

back next

ALICE+