051 まわるまるい心臓
「栞、あそコ!」
「……っ!!」
栞がイヴモンと共に戻ると、ピッコロモンの作った結界に守られた子供たちの姿が見えた。その後ろに、ティラノモンの姿も見える。
「みんなっ!」
飛び出そうとした栞の眼前を、オレンジ色の炎が遮った。小さく縮こまった栞を見て、ピッコロモンは唇をかんだ。
―――…間に合ったには間に合った。でも、…だめだったのか。
太一もまだ来ない。栞はだめだった。
ラブセレナーデで他のデジモンたちが戦えないのなら、自分が闘えば済む話だ。どちらにせよ成熟期だ、そんなに手間はかからない。しかし結界を解いた瞬間を狙って攻撃を仕掛けてこられたらどうする? 子供たちに危害が加わってしまう。 どうすれば、いいんだ。
「…おねがい、」
何かが、ピッコロモンの胸に明かりを灯してくれた。それは、不安な心の闇を、取り払う光だった。ピッコロモンは徐に栞を見つめた。
ああ…、だめなことなんて、なかったのだ。守人は、ちゃんと心を学べたのだ。彼女の光はすべてを救う。いつか。この光のもと、きっとデジタルワールドに巣食う闇もすべて照らし出してくださる。
あとは、太一を待つのみだ。
しかし、子供たちを守らなければならないピッコロモンにとって、少しの猶予も残されてはいなかった。勢いよく吐き出される炎の塊に、結界の内側から受け止めるピッコロモンの顔に汗が浮かぶ。
(これ以上、太一たちを待てないッピ!不本意だが、この私がティラノモンを…)
「八神くん、アグモンっ!」
栞は更に祈りを込めた。
願う思いは、データを超えて、舞い降りる。降り積もるは、優しくて暖かい願いだった。
「アグモン進化ぁ!」
アグモンの声が聞こえ、栞は瞑っていた目を開けた。
(できるよ、ぜったい)
進化は強制されてするものじゃない。
自らが願い、誰かを守りたいと思ったとき、はじめてデータは彼らにその力を与える。
太一はそれを見つけた。彼の中で一番大切なものはなにか、見つけることができたのだ。
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