「ここはデータだけの世界」
一層強くずきんと頭が痛んだ。性根の悪いウイルスが彼女の基礎部分を壊すとでも言うように、這いずりまわっているようだった。早く、取り除かなければ、データが全て失われてしまう。ウイルスを駆除するものが欲しい、とバカげた考えを頭の中で必死に考えた。それでも、痛みが失われることはない。
「つまりゲームやコンピュータの中と同じ世界なんですが…地球から遠く離れたどこかというわけじゃなく…僕たちの地球のコンピュータネットワークそのものなんです!つまりこのデジタルワールドは僕たちの世界と同じ場所にある地球の影といってもいい世界なんです」
「地球の、影…!?」
「ここは…地球だったのか…」
歓喜に満ちた答えがようやく見つけられた。
しかしその答えが導きだせたからといって何になるわけではない。肝心な答えである―――いわゆる現実世界に戻れるのか否かという問いには、まだ応えられないからだ。帰れるのかと問いかけるタケルに、ヤマトが優しく諭すようにそう言った。
丈の身体がずるずると座り込むように沈んでいった。つかの間の喜びに沸いたわけだが、だからどうすればいいのかはさっぱり分からない。ついたため息は重たいものだった。
「ますますどうしていいか分からなくなった…」
「何言ってんだよ!オイラがついてるじゃないかー!」
「空、よく分かんなかったけど…すぐに戻っちゃうの?」
「ううん…。私たちにはこの世界でやらなきゃいけないことがあるみちあだから、それが終わるまでは戻れないわ…」
少しだけ潤んだ瞳で見上げるピヨモンの頭に手をおいて、空は優しく言った。
「兎に角」
太一は常時厳しい表情をしていた。
「メールの差出人を助ける事が先だ!次はどこにいくんだ?」
「それは…メールについてきたプログラムを実行すると…」
人差し指、中指、薬指を巧みに操って、最後は小指でエンターキーを力強く押した。
パァ、と暗かった洞窟に光が差した。その原因は、行き止まりだった通路の先が、プログラムを実行したことにより開かれたからだった。光子郎はぱたりと蓋を閉めて、あの外に差出人がいるはずだと厳しい表情で言った。驚いた空だったが、その後のプログラムで空間を繋いだという答えに納得した様子だった。
太一が先頭となり、開けたところから外を覗きこんだ。少し久しぶりになる外の光に目をやられそうになったので、一回だけ目を閉じる。すぐに目を開けて、目を細めた。見えたのはどこまでも続く砂漠と、その上に浮かぶ逆三角形のピラミッドだった。
「あれは…」
太一はお得意の動体視力で、砂漠の中を走る一体のトレーラーを見つける。悪趣味のような品のない柄を見れば、それが誰のものだかすぐにわかった。
―――…それはやっぱりエテモンだった。太一は力強く拳を握りしめて、頬を汗が伝うのが分かった。
「…慎重に行きましょう」
隣の空は、少しだけ不安そうな顔をしていた。太一はそんな空の顔を見て、少し引っかかるところがあったが、すぐに頷いた。
「とりあえずエテモンが引くまでここに―――」
「栞!!」
イヴモンの切羽詰まる声が、彼らの耳に届く。栞?―――そういえば先ほどから声を聞かないが。太一はおそらく彼女がいるであろう場所を振り返る。
「っ栞!?」
彼女は、その場に、静かに倒れていた。
17/07/25 訂正
10/11/28
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