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「…話、って何だ?」


 子供たちの話も終わり、全員一致で空を助けに行くことが決まった。その後だった。あまり会話をしたことがない3人、正確には1人と2匹だが、少し洞窟から離れた場所に立っていた。ヤマトは夜風に吹かれた髪を抑え、目の前に浮いているイヴモンを見つめた。


「…ヤマトハ、気づイたよネ」
「え?」
「どうしテ、分カッたのかナっテ想ってサ。ミミやタケルは気づかナかッたかラ」
「………」


 ポケットに手を突っ込み俯いてしまったヤマトを気遣うようにガブモンは彼に寄り添った。少しだけ驚いたように目を開け、ヤマトはパートナーの優しさに触れた。
 あの時、違和感を感じたのは一瞬だった。そこからふつふつと湧いたのは、不信感だった。


「…いつもの栞と違った気がしたんだ」
「違、ウ?」
「なんて言ったらいいか分からんが、…雰囲気が、いつものアイツと違った。ただ、それだけだったんだ」
「……そウ」
「あれは、本当に栞なのか?」
「…栞だよ」


 夜の暗闇に、イヴモンの白い身体はよく映えた。そのおかげか、ヤマトが彼の表情を見落とすことはなく、問いかけるのが少しためらわれた。どうしてそんな悲しげに顔をゆがませるのか、ヤマトには分からなかった。


「お願い、だから」


 悲痛にも似た声は、先ほど聞いた。栞が豹変したように、太一を責め立てた時だった。その後栞は再び倒れ、未だ起きてはいない。太一は少なくとも先ほどのことを気にしているようだったし、自分も戸惑いを覚えた。否、恐怖心さえも芽生えたくらいだった。
 そんなことをぼんやりと考えていたら、ガブモンとは違い柔らかい毛質がヤマトの手に触れた。


「お願いだから、栞を否定しないで…」
「イヴ、モン、」
「栞を嫌いにならないで…。あの子は、誰よりも優しいから。だから…」
「お、おい。落ち着けよ、」
「あれは、栞…、だよ。だけど、栞のせいじゃないんだ。今、栞にとって誰よりも大切なのは空で、その空がいなくなって、心のバランスが取れなくなってしまった結果がアレだよ。空はきっかけにすぎない。だけどそのほころんだ心に、この大陸を阻む闇の力が、強く強く栞の中に入りこんだ、ただ、それだけなんだ…」


 まるで己の事を弁解するように、イヴモンは強くヤマトに言った。しがみつかれた手が、酷く温もりを求め、やがれそれに触れた。ヤマトは戸惑いを覚えたが、自分のことをこのメンバーの中の誰よりも大人だと言い聞かせ、小さく頷いた。

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