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―――…あ…、ナノモン。こんにちは。
―――…ひとりで何をしている。
―――…そろそろここらへんも冷たくなってしまうから、蓄えを。ああ、そうだ。たくさん子供たちも生まれたから、今度見に来てね?
―――…そのうち、な…。
―――…ふふ、約束、だよ?
黒い髪を揺らせて、微笑む姿が、この場所のどんな景色よりも美しいと思っていた。
「…あらこんなところでお人形さんごっこ?まあいいわ。子供たちには逃げられちゃったけど…アンタはここで始末してやるわ!観念しなさい!!」
宿敵であるエテモンが目の前にいても、ナノモンは落ち着きを払っていた。静かに穴へと近づき、エテモンの足を強い力で掴んで、穴の中に飛び込む。
「お前も道連れだ、エテモン」
「キャッ!!は…離しなさいよ!!アンタと心中なんでまっぴらごめんだわ!!」
失った記憶の一部は、きらりと輝き、鮮やかに色づいた。ナノモンはふ、と笑みを浮かべ、暗黒ネットワーク目掛けプラグボムを放った。
「どこを狙ってるのよ!?思考回路に異常が残ってるんじゃない?」
相変わらず、馬鹿なデジモンだ。ナノモンは鼻でふ、と笑って、先ほどの少女を思い出した。光を放った優しい希望。あの人を――ずっと求めていた。エテモンが、彼女の障害となるならば。
「今のがただのプラグボムだと思ったら大きな間違いだ…。拡大を続ける暗黒エネルギーを逆に集中させるコンピュータウイルスを組み込んでいたのだ!!」
その言葉の通り、外から吸い込まれてきた己の部下にあたるデジモンたちが、暗黒ネットワークの中にはじけて消えて行った。必死にしがみつくエテモンに、ナノモンは小さく「お前も終わりだ」と言い放った。
「そ、そんな…!!くそぉ!!」
ナノモンは、小さく笑みを浮かべ、ネットワークの中に自ら飛び込んだ。さらさら、と分解されて消えてゆく己だが、最後に幸せなことを思い出せたから、よかった。
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