「おっと…最後に礼くらいは述べないと失礼かな?」

点滴に刺した注射器の針を一旦引き抜く。
これを点滴に注入すればすぐに彼女の命は尽きてしまう、そういう薬だ。

「君は素晴らしい女性だ、貴虎の子を身籠るに相応しい。
だけど貴虎と添い遂げるとなると話は別だ、彼と一生を共にするに相応しい女なんてこの世に存在するわけがない…悪く思わないでくれ」

ありがとう、君が遺してくれた子は僕と貴虎で大切に育てるよ。

「さようなら」

待ち侘びた瞬間の訪れに、口の端が歪に持ち上がるのを自覚した。




最愛の女性を喪った貴虎が彼女の墓前に立ち尽くしている。
あまり普段と変わらない表情に見えるが、きっと彼は今深い悲しみに打ちひしがれているんだろう。
僕には理解できない感情だが、彼女を貴虎に置き換えれば

「悲しまないで、貴虎…君には僕がついてるじゃないか」

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