ふわああっと、欠伸が零れる。隣の渚に眠そうだね、と言われ喋るのも面倒でこくりと頷いた。お姉さん眠いよ、とても眠いの。本当は朝苦手なんだ。そしてこの人混み…私を殺す気か。

AからDまではグリーン車に乗り込み、E組は普通車の前に並んでいる。嫌味ったらしくデブとガリが私達に言った。


「学費の用途は成績優秀者に優先される」
「おやおや君達からは貧乏の香りがしてくるねぇ」


渚にいたっては苦笑いしかしていない。ほんとクソガキだなあ。私低血圧で朝はキレやすいんだ。何か言ってやろうかと、口を開いたところで後ろから「ごめんあそばせ…」と声がした。デブとガリが目を見開いたのを見て嫌な予感のまま、声の主を確認すると、


『ワッハ……!』


引率の先生、としては絶対にありえないゴージャスな服を身にまとったイリーナだった。あぁ、ああー…。


『イリーナ!他の服はないの?あいつに見つかる前に早く着替えた方が…』

「ほんとだよ、何だよそのハリウッドセレブみたいなカッコはよ」

「何言ってんのよ遊乃。あんたも女の暗殺者ならわかるでしょ?暗殺対象にバカンスに誘われるって結構あるの。ダサいカッコで幻滅させたら、せっかくのチャンスを逃しかねない。良い女は、旅ファッションにこそ気を遣うのよ」


うん、うんうん、分かる、分かるけどね?今のイリーナは一応引率の先生としているわけで、あ……


『烏間…』


そこからは色々あった。ものすごい青筋を立ててものすごい低い声で「脱げ、着替えろ」と言った烏間に、流石のイリーナも抵抗出来ぬまま、1番マシだった服(寝巻き)に着替えさせられ、

1番張り切っていたであろう殺せんせーは、駅中のスウィーツを買っていたら乗り遅れたりなどなど…出発早々、騒がしいクラスだ。


◇◇◇


皆でトランプをやったり、花札をやったりと過ごしているうちに喉が渇いてきた。そういえば何も口にしていない。


『飲み物買ってくるけど、皆何がいい?』


そう伝えると、女子達がついてきてくれるそうだ。談笑も程々に歩きながら、ふと目線を前に向けると"いかにも"な連中が立っていた。ニヤニヤとこちらを眺めている。前を歩く神崎さんは気づいていないようで、あちらはあちらで避ける素振りもない。


ぶつかる直前で神崎さんの腰に、手を回し優しく自分の方へ引き寄せた。そこでやっと気づいたのか、彼らに一言謝罪を告げて横を通り過ぎた。


「遊乃ちゃん、ありがとう。ぶつかるとこだった」

「カッコよかったねー!私もされたい!」

「憧れちゃいますね」

『…褒めても何も出ないわよ』


そんな事言われたこともなく、慣れてるはずもかい私は、照れくさいのを誤魔化すことで必死だったため、後ろからの視線など気にも留めていなかった。


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