『いいから、気にしないで』

「いやいや、でもさ!」

「そうだよ、悪いよ!」

「あわわ…」

『年下に出させるほど、私も腐っちゃいないわよ。黙って甘えな?』


この攻防戦は、かれこれ5分ほど続いた。コツンとカエデのおデコを軽く小突いたところで、やっと3人は折れた。班皆の分の飲み物やお菓子の会計を済ませる。お礼を言われて、ヒラヒラと手を振った。

帰る途中、向こう側からこちらに歩いてくるカルマの姿を見つけた。カルマも気づいたようで、


「やっほー。あれ、皆買ってきたんだ?」

『カルマも今から?』

「ん、ジュースとお菓子の調達に」

『あんたのも買ってあるよ』

「嘘、やった、遊乃ちゃん流石!良い女」


はいはい、と流しつつ席に戻るや否や、カルマは自分の分と私の分の飲み物を持って、早々に私の腕を引いた。


「遊乃ちゃん、貰ってくねー」

『ちょっ、!?』


最後に見たのは、ニンマリ顔のカエデだった。おい、なんだその意味深なウインク!

カルマの席に着くと窓側に案内され、当の本人は大きく欠伸を零した。それにつられて、私も欠伸を一つ。


「あ、うつった」

『眠いだけよ』

「ふ、素直じゃないなー」

『わかったわかった。で、何で私こっちに連れてこられたわけ?』


その質問に、何故かカルマはキョトンとして笑った。


「んー、遊乃ちゃんが恋しかったから」

『なに、それ』


バカじゃないの、と毒を吐くが、そんなことを言われたのは初めてで心臓が鳴る。隣で微笑むこいつは、多分誰よりも悪魔だと、思う。



―カルマside


『なに、それ』


バカじゃないの、そう言って少し俯く遊乃ちゃんが可愛くて、頬が緩んだ。からかってなど、いない。本心だ。

最初は珍しい転入生、ってことで興味はあった。が、多分今はそれだけじゃない。俺もそこまでガキじゃないし、これがなんなのか、分からないわけじゃない。

ただ、相手が相手だ。同い年でもなければ、まだ少ししか一緒に過ごしていない。経験など、俺に比べたらはるかに上だろう。


それでも―――

眠い、と、呟いて俺の肩に頭を預けるアンタを、欲しいと思っちゃったんだよね。数分も経たぬうちに規則正しい寝息が聞こえてくる。

起こさないよう、そっと髪を撫でてやった。前髪を掻き分け、優しく口付けを落とす。


「今はまだ、ココ…ね」


唇は、もう少し後で、貰うから。


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