『へぇ、祇園って奥に入るとこんなにも人気ないのね』
石畳を歩き、途中の甘味屋で少し寄り道をした後、神崎さんに連れてこられたのは路地裏を渡った先だった。
人気も無く、けれど広くも狭くもないこの場所は神崎さんが言うように暗殺に適してると言える。
「流石神崎さん、下調べカンペキ!」
「じゃ、ここで決行に決めよっか」
そうね、と口に出そうとした時。
3人――いや、4人分の息遣いを耳が捉える。それと同時に舐めるような視線。
『…ちっ』
思わず舌打ちをしてしまうような素人の殺気に不愉快だと顔を顰め、近くに居たカエデの腕を引いて背後に隠す。
突然のことに驚き戸惑うカエデだが、説明してる暇はない。数秒も経たない頃には、最早神経をとがらせる必要の無いほどに響き渡る靴音が、全員の耳に届いた。
「ホントうってつけだ。なんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」
「……何、お兄さん等?観光が目的っぽくないんだけど」
カルマが前に出て対抗する。守らなければならない人数は渚、奥田さん、神崎さん、カエデの4人。
カルマは勿論必要ないだろうし、杉野君も自力で守ってもらわねば困る。それにカルマの事だ、自ら突っ走ってくれるだろう。
『あんまり私から離れんなよ』
「う、うん……!」
小声でそう呼びかけ、頷いたのを確認してから不良達に目線をやる。
口角をあげ、まさに自分達が圧倒的有利な立場に立っているのだと確信しているその笑顔からは如何に相手の教養が低いのかがにじみ出ている。負けないだろうな、と思うくらいには。
「男に用はねー、女置いておうち帰んな」
そう男が声を発した途端、カルマが動いた。
顎を下から掴まれ、そのまま力の限り口を強制的に閉められた男。
あれは思い切り舌を噛み、更に顎も外れただろう。そして追い討ちに目潰しをしたあとは、容赦なく後頭部を近くにあった電柱へ叩きつけた。
……うわぁ、痛そう。
―――あれ、
ふとした違和感。最初に聞こえていた息遣いは4人。……倒れているのも含め今は3人。
「ホラね、渚君。目撃者いないとこならケンカしても問題ないっしょ」
……じゃあ、あと、1人は?
『カルマッッ!!』
もう1人が鉄パイプを振りかざす姿を視界の端に入れながら、カルマの腕を引いて自分の中に隠す。
それと同時に鈍い音が辺りに響き、後頭部の痛みを感じる暇も無く、意識は簡単に飛んだ。
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