「ここがお前のクラスだ。合図をしたら入ってこい」


うん、ダメだやっぱ緊張するものは緊張する。

あまりの緊張に数回頷くことしか出来ない私を見て、察してなのか、なんと烏間は溜息をつきながらだが、くしゃっと頭を撫でてくれた。

……お、おう、あんた女に対してそんなことが出来たのか!私はびっくりだよ。無言で入っていく背中にありがとうと声をかけ見送った。

ほんの少しの好奇心から、ドアについている小窓から少し覗いてみる。


『うわぉ…』


思わずマヌケな声が出てしまった。中で烏間が喋っていることよりも目に止まったのは、

黄色のデカイ物体まさに、タコ…アレが、アイツが標的か……あんなものが地球に居たのか。というか、何をどうしたらあんな風になるんだ、まさにエイリアンじゃないか。

そりゃアレが地球に存在しているなんて一般市民に知れたら、大騒ぎどころじゃ済まないだろうから国家機密というのも納得がいく。


なんだか拍子抜けというか、想像以上というか予想のはるか斜め上というか、アレがマッハ20か、そうか……あんなエイリアンなら、マッハ20というのにも頷けないこともないと思う。

先程まで緊張してた私がバカらしい。

そして烏間と目が合い合図をされた。ということは、教室に入らなきゃいけないとういうことだ。深呼吸をしてドアに手をかけガラッと開く。

横目に生徒達を見渡し思う。最近の中学生は美男美女が多い…あ、あの赤髪の子すごいタイプ。本当に中学生かよお姉さんびっくりだよ!

なんてどうでもいいことを考えてるあたり、本当に緊張が解けている。…おかげで、手元が狂う心配は無くなった。まあ緊張してても暗殺となれば別だが…


息を吸うように自然に、後ろ手に標的への専用ナイフを出す。事前に烏間に渡された物だ。標的と目が合いニコリと笑って見せた。

あと少しもう少しだけ…近づいて、音もなくナイフを投げた。標的の目が見開かれるが簡単に避けられる。ナイフは標的がハンカチのようなもので持っていた。

ナイフを見つめてこちらを向く、その一瞬…私にもそれだけあれば充分な時間だ。

標的に近づき素早く別のナイフを振りかざす。少しでも当たれば、それでいい、コイツのスピードが見てみたいだけだ。

突然の攻撃には弱いのか、反応速度が人並み。それでもやはりまた避けられた。


にゅやーっ!なんて叫びながら烏間の後ろに隠れ、烏間を盾にする。内心舌打ちをするが、ナイフの先…ソレが目に入りニヤリと笑みを零した。


『本当に早いんですね。でも、ほんの少しだけどナイフ…当たりました』


刃先を下にして、黄色の液体を見せつけるように前に出す。ソレは重力に従いそのまま1滴、床に落ちた。

シン、と静まり返る教室に、やってしまった…と我に返る。

標的に関しては、デカイ図体をこれでもかと烏間の後ろで隠すように縮まっている。そんな烏間は私の時とは比べ物にならないくらい、眉間にシワがよっていた。

うん、やらかしたのかな、うん


『あ、あのー…なんかごめん烏間』


もう笑うしかない。とりあえず、前を向き直し自己紹介。


『えぇ、っと…烏間から聞いたと思うけど、姫龍 遊乃です。皆より歳は上なんだけど……気軽に名前で呼んでくれたら、嬉しいです!よろしくお願いします』


ペコッと軽く頭を下げたその瞬間、色んな言葉が飛び交った。あ、うん、なんか大丈夫そうだった。良かった。


「遊乃さん、ご存知だと思いますが…私が…このクラスの担任です…標的です…殺せんせーと、呼んで下さい……あなたの席は、そうですね、カルマ君の横が空いています」


そう言い…指?いや、触手?を指した場所は、先程くだらないことを考えていた男の子の隣だった。ニコッと笑いひらひらと手を振る彼はカルマと言うのか。


『えと、殺せんせー?出会い頭に悪いとは思ってるけど、あの、泣かないでくださいよ』


涙を流しながらオイオイと喚く先生に、思わず苦笑してしまう。しかもいつまでも烏間の後ろに隠れてメソメソしてるもんだから、痺れを切らしたのか烏間も攻撃を仕掛けるが、綺麗さっぱりかわされていた。


やっぱりさっきのは、相当なまぐれ…か。私のことは気にせず席へと言われたので、大人しく赤髪君の隣の席へ向かった。


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