その後、私達はドラッグストアに寄って梓くんの今後の生活に必要なものを買い込むことにした。無論、代金は全て私が払う。
 梓くんは少し難色を示したが、無一文の彼にはどうしようもないことなので仕方がない。
 正直、この出費が苦しいか苦しくないかで言えば苦しいが、梓くんの生活のため。何を惜しむことがあろうか。
 それに、梓くんに貢げるなんて滅多なことではできない。私も当時は学生だったので、気に入ったグッズを好きなだけ買う、なんてことすらできなかった。梓くんに直接お金を払えるということに、少なからず、いやとても、かなり、心が踊っているのだ。

「梓くん、シャンプーに拘りある? メンズ物ってトラベル用あんまりないけど、どれにする?」
「……いや、シャンプーは先輩の家にあるもので構いませんよ」
「え、そう? いいの? ボディソープも?」
「はい。何でもいいです」

 私も大して拘りがあるわけではないので、パッケージが気に入ったものや、CMを観たりして名前を聞いたことのあるメーカーのものを財布と相談しながら買っているが、それでいいのだろうか。まあ、梓くんがいいと言うならいいのだろう。
 非常に残念ではある。だって梓くんの好みのシャンプーなんてどこにも載ってないし知ることができない。

「そうなんだ……。さすがに歯ブラシは買うから、歯磨き粉も好きなの選んでね」
「歯ブラシも一番安いので大丈夫ですし、歯磨き粉も先輩の家の物お借りします」
「えっ、歯ブラシ拘りないの!? 細いのがいいとか、固いのがいいとか」
「そこまで贅沢言いませんよ」
「言っていいのに」
「言えませんって。払うのは先輩ですし。残念ながら返せる見込みもないですし」

 提案する物する物、梓くんは半ば呆れがちに拒否をする。お金を払うのは私だから遠慮をしている、というのももちろんあるだろうが、私が楽しんでしまっているのが伝わっているのだろう。
 正直楽しい。自分の服を買うよりも楽しい。

「……梓くん、スキンケアは……」
「特にしてません」

 特にしてなくてこの肌か! ニキビひとつ無く肌荒れ知らずのスベスベ肌は若さ故だろうか、運動をしてるからだろうか、遺伝子だろうか。
 私はため息を吐きながら、安売りしている大容量の化粧水を梓くんの持つ買い物カゴに入れた。梓くんにみっともない肌を晒すのも抵抗があったので、ついでにちょっと贅沢をしてパックも買った。

 梓くんが数日を凌ぐため、念のため2枚ほどの下着と、寝巻き用のシャツもカゴに入れる。ズボンはさすがになかったので、私の持ってるフリーサイズで我慢してもらおう。そんなに背丈が変わらなくてよかった。

 続いてコンビニに寄って明日の朝ごはんと梓くん用の昼ごはんを調達した。なお、せっかくだからと勧めたコンビニスイーツやアイスなどは丁重にお断りされた。
 幸い、夜勤の店員はくたびれたOLと制服の高校生の組み合わせに露ほどの興味も示さなかった。いやまあ、いかがわしいものとか買ってないし、何にも怪しくないけどね、うん。
 本屋に寄って参考書なども買ってあげたかったが、もう既に閉まっていたので今日は諦めることにする。

 家まで徒歩10分程の距離。梓くんが何日か居座る前提で生活用品を買い込んだが、もしかしたら私の幻覚かもしれない、夢かもしれない、という考えは未だ拭いきれずにいる。いや、ファミレスできちんと食事が置かれたしさすがに幻覚ということはないか。私を騙すためのコスプレイヤーという線もやはりあまりに凝りすぎていて考えにくい。梓くんは本当に梓くんであり、例えるなら妖精のような、人でない存在で、明日には突然いなくなっててもおかしくはないと考えるのが一番しっくり来てしまうあたり、私もとうとう頭が沸いてしまったのかもしれない。

 隣を歩く梓くんを見やる。本当に整った顔をしてるな。どこからどう見ても梓くんだ。その深い紫の瞳も、カラコンには見えない。
 視線に気付いた梓くんは、何も言わずににこりとこちらに微笑む。きゅう、と心臓を鷲掴みにされた気分だ。こんな幸せなことがあっていいのだろうか。
 ああもう、夢でも、罠でもなんでもいい。今日この瞬間の思い出だけで、あと5年は生きていける。

20201107
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