◆◇ 七
カラフルなふうせん。くまさんのお耳の付いたのりもの。可愛いお洋ふくを着たお兄さんやお姉さん。何だかウキウキするようなメロディー。どこかのお店やさんからフワフワと飛んでくる、あまいニオイ。
つないだ手の先には、とってもやさしい千歳お姉さん。
こんなにステキなことないってくらい、すっごく楽しい!
「ねえねえ千歳お姉さん、次はなににするー?」
「ん、そうだね……じゃあ歩美ちゃん、次は皆と一緒に観覧車に乗ってきたらどうかな?
お姉さんは、」
あたりをきょろきょろ見まわしていたお姉さんが口にしたことばのつづきを、聞きたくなかった。
楽しかったキモチがどこかに落っこちてくみたいにコロコロころがってなくなっちゃいそう。
「ヤダ!
だってお姉さん、そのまま昴さんとまたどこかに行っちゃうんでしょ?
歩美もお姉さんと一緒にいたい!」
「歩美ちゃん……」
少しおどろいたお顔をしているお姉さんに、それでもワガママを通したいキモチと、お姉さんを困らせたくないキモチがケンカする。
どちらかをあきらめるのは、まだちょっとムリで、ぐちゃぐちゃなキモチが目にいっぱいたまって今にもホッペにこぼれちゃいそう。
やだな、困らせたくないのに。でも、口から出てくるのは言いわけばっかり。
「だって、お姉さん昴さんといるのイヤそうだったもん!
歩美の方がお姉さんと仲良しだもん、昴さんみたいにいじわるしないもん!!」
「い、意地悪……」
「っふ……、ん"ん! ごほんっ!
そうだね、歩美ちゃんとお姉さんの方が仲良しだよね、でも昴お兄さんも別に意地悪しているわけじゃないんだよ?」
「今性格悪いだけって言いましたね?」
「沖矢さんシー」
笑顔で昴さんをからかっているように見えるお姉さんは、だけどやっぱりちょっとだけ、かたい、ような気がする。
大人はいつも子どもにはなんにも分からないって思っているけど、子どもにだって分かっていることはたくさんあるのに。
たとえばきっと、お姉さんは昴さんのことをほんの少しこわがっている、ということとか。
たとえば、今から大人は子どもにナイショで、何か事件に飛びこもうとしていることとか。
だってみんなのホームズ──コナンくんがまた、一人でどこかに行っちゃったから。
置いてけぼりがくやしくて、子供だからってほうっておかれるのが悲しくて、せいいっぱいの強がりでキッとお顔を上げたら、思っていたよりずっと、やさしい目をした千歳お姉さんがこっちを見てた。
ぽかん、とあけた口がパクパクあいたりとじたりをくり返して、けっきょくモンクは出てこなくて。
それをかくにんしてからゆっくりとひざを曲げたお姉さんが、目と目が合う所にまで下りてきて、やさしく頭をなでてくれる。
「ごめんね、歩美ちゃん、寂しかったよね、それなのに我慢してくれてたんだよね。
お姉さんのこと守ろうとしてくれたのも、嬉しかった。ありがとう。
お姉さん危ないことはしないって約束するから、もうちょっとだけ、待っていてくれる?
歩美ちゃんと遊ぶのを楽しみに取っておいたら、きっともう少しだけ、頑張れるから」
「……ほんと?」
「うん?」
「本当に、がんばれる?」
「うん、本当」
「じゃあ、」
じゃあ、歩美もがんばるね。きゅ、と小ゆびでゆびきりげんまん。お姉さんがおだやかに笑うから、本当は待つのはニガテだけど、走って追いかけちゃいたくなるけど、今日はガマン。
元太くんと光彦くんのことも、歩美が止めてあげなくちゃ。コナンくんはあとでお姉さんにおこられちゃえばいいんだ。おこられて、もう少しだけ歩美達といっしょにいてくれるようになればいい。
哀ちゃんにそう言ってみたら、いつもみたいにやさしいお顔で、そうねって、笑ってくれるかな。
そんなことを考えていて、だからキイキイとゆれるトビラの音にお姉さんがお顔をゆがめたのには、気付くことは出来なかったけれど。
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