宗介からの話は、何てことない、分かりきっていたことだった。 分かりきっていて、でも、想像もしていなかったような話だった。 私達の愛した水の話。"私達"の手に届かなくなった、水の話。 「いつから?」 「高校入って、暫くして。 何度かリハビリしたりして無理矢理続けてて、ーー気付いたら、壊れちまってた。」 「何で、」 「腐っててさ。情けねえから、すぐには言えなかった。ごめんな。」 「……凛、は?」 「凛には言わない。」 皮肉なほど、同じだ。届かないと知りながら向ける、その羨望も。内に秘める、燻ったその熱も。 揺れる瞳が全てを物語っていた。それで十分だった。宗介は、分かっていて口にしたのだろうか。わたしが宗介に求めるものが、ただの傷の舐め合いになると、分かっていて。 「宗介、わたしね、凛のこと、」 「ああ。」 知っていて、貴澄は、黙認したのだろうか。 わたしが壊れてしまわないように? 水を掻き分ける為だけに鍛えられたその檻に閉じ込められながら、ただぼんやりと、昨日のやり取りを思い出していた。 宗介がこちらに帰ってきていること。明日、宗介と家で会う約束をしていること。久しぶり過ぎて気まずいから貴澄も来たらいいのに、なんて言ってみたけど、僕はいいよなんて笑って返されたこと。その後、ふと伺った時の表情。 あの時の泣き笑いのような顔が頭の中を浮遊して消えてくれない。 「真尋?」 「何で、届かないものばっかり、追いかけちゃうんだろうね。」 捨てちゃえばいいのに。側にあるものだけを大切に出来たら良かったのに。 そう吐き捨てると、宗介が抱き締める力を強めながら絞り出すような声で告げた。 「欲しいものは、欲しいんだよ。」 捨てられるのか?お前は。捨てたんだよ、もうわたしは。 瞼に広がる煌めく青と佇む赤が、そんな虚言を否定してかかる。 いつまで経っても上を向いたまま、一向に前に進めてなんかいないのだ。 届かない者を見上げ 今日も踵を上げる |