03

宗介からの話は、何てことない、分かりきっていたことだった。
分かりきっていて、でも、想像もしていなかったような話だった。
私達の愛した水の話。"私達"の手に届かなくなった、水の話。



「いつから?」

「高校入って、暫くして。
何度かリハビリしたりして無理矢理続けてて、ーー気付いたら、壊れちまってた。」

「何で、」

「腐っててさ。情けねえから、すぐには言えなかった。ごめんな。」

「……凛、は?」



「凛には言わない。」



皮肉なほど、同じだ。届かないと知りながら向ける、その羨望も。内に秘める、燻ったその熱も。
揺れる瞳が全てを物語っていた。それで十分だった。宗介は、分かっていて口にしたのだろうか。わたしが宗介に求めるものが、ただの傷の舐め合いになると、分かっていて。



「宗介、わたしね、凛のこと、」

「ああ。」



知っていて、貴澄は、黙認したのだろうか。
わたしが壊れてしまわないように?
水を掻き分ける為だけに鍛えられたその檻に閉じ込められながら、ただぼんやりと、昨日のやり取りを思い出していた。
宗介がこちらに帰ってきていること。明日、宗介と家で会う約束をしていること。久しぶり過ぎて気まずいから貴澄も来たらいいのに、なんて言ってみたけど、僕はいいよなんて笑って返されたこと。その後、ふと伺った時の表情。


あの時の泣き笑いのような顔が頭の中を浮遊して消えてくれない。



「真尋?」

「何で、届かないものばっかり、追いかけちゃうんだろうね。」



捨てちゃえばいいのに。側にあるものだけを大切に出来たら良かったのに。
そう吐き捨てると、宗介が抱き締める力を強めながら絞り出すような声で告げた。



「欲しいものは、欲しいんだよ。」



捨てられるのか?お前は。捨てたんだよ、もうわたしは。
瞼に広がる煌めく青と佇む赤が、そんな虚言を否定してかかる。
いつまで経っても上を向いたまま、一向に前に進めてなんかいないのだ。





届かない者を見上げ
今日も踵を上げる






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