07
夕ご飯出来たよ、と伝えるとこちらをチラリと見、その後のそのそと頭をかきながらこちらにやって来た。
食卓テーブルに出来上がった煮込みうどんを出すと瞬で目がキュッと細くなる。
「有言実行したまでだけど」
「…」
「あっ!ちょっと!ちゃんと食べないと失礼って言ったの自分じゃん!もーーー!」
ポイポイとシイタケだけを摘んで私の器の中に放り込み始める猫目のオガタと、ちゃんと食べなさいと再びシイタケをオガタの器に放る私との攻防戦は麺が伸びてしまうという私の一言であっという間に終戦を迎えた。
シイタケ以外を全部食べきったオガタがずっとそのシイタケを箸で摘んでジッと見つめているが、そんな事をしてもシイタケは消滅してはくれないぞ。分かっているのか。
そうこうしている内にも私も食べ終えてしまい食器を洗う準備にとりかかる。が、オガタが一向にシイタケを食べないし、箸で摘んだシイタケを食べれたとしてもまだ器にはたくさんシイタケが入っているのだ、これはかなり時間がかかることになるぞ…。
「意地悪してごめんね、片付けたいからもう残していいよ。私が食べるから。」
その代わりに今度ナスは食べてね?と伝えオガタから箸と器を奪い取り残ったシイタケを全部口に入れながらシンクに向かってようやくお皿洗いが始まった。
***
「あ。ねえお布団ここに敷いて寝てもらっていい?」
「別にどこだって構わない。昨夜もあそこで寝たしな。」
クイ、と顎で指し示すのは廊下に繋がる扉。え、何もしかして廊下で寝たの?あんな硬い床の上で、しかも寒い中何も掛けずに寝たの?風邪ひいちゃうじゃん。「寒かったでしょ、ごめんね。」と謝れば「慣れてる」と返されどんな状況下に置かれていたんだ?と首をかしげてしまう。
正直本当はあんまりオガタがタイムスリップしてきた事実を受け止められてない自分がいる。でも、ニュースサイトにも警察のサイトにも行方不明者として取り上げられてなかった。非科学的な事が一番怖いのだ。
タイムスリップして来たという事は、このオガタが本来いるべき時代にオガタが居ないと言うことになる。オガタと仲のいい人達はきっと心配しているはず。なるべく早く彼を元の場所?時代?に帰してあげなければならないのだが、いかんせん、方法がわからない。曰く付きのこの部屋のせいで来てしまったのなら部屋に何かカギがあるはずなのだが、それも分からない。オガタが現れた時、私は仕事をしていたのでどんなシチュエーションで彼がこちらに来たのかも謎だ。そうだ、彼はここへ来る前何をしていたのだろう。
「オガタって軍人って言ってたけどここに来る前何してたの?」
「…大した事はしてない。鯉登少尉に絡まれてたくらいか。」
「コイトショウイってだれェ…」
「上官だ。」
「へえ、上下関係厄介そうだね。」
「興奮すると薩摩弁になるのがまた愉快でな。馬鹿にすると更に面白いぞ。」
「上官馬鹿にするとかオガタってやばいやつじゃん。」
「ちゃんとした戦争も体験してない薩摩のボンボンに舐められるのも腹が立つんでな。」
戦争。
そのフレーズを聞いてなんて言葉を返せばいいのか見つからない。私は平成生まれの根っからの平和ボケしてるゆるゆるな日本人故、その戦争が如何程なのかピンとこない。
けれど、こうして昔の人が戦ってくれたお陰で今私たちが平和に生きられているんだ。
戦争ってどんな感じなの?怖かった?何を思いながら、戦争に行ったの?学生の頃に戦争を体験したお爺さんに抱えた質問はあの頃の私には音にする勇気がなかった。そして、今もそんな勇気はない。どんな気持ちで戦ったのだろうか。
何も話さなくなった私を彼ははすごい顔して此方を見て「なんだ、腹でも痛くなったのか。」と自分の髪をさらりと撫でる。
「いや、なんか。昔の人って凄いなと。今が平和すぎて、その、戦争がパワーワードっていうか、私たち世代からは想像もつかないし、考えられないし実際見てないから分かんないからもう凄いしか言えないんだけど。」
「…あんたらがどう俺たちのことを思ってるか知らねえが、現実清い話なんて皆無だぞ。さっきだって言っただろ?上官を馬鹿にだってするんだ。」
「それはオガタだけなのでは?」
「ほう?」
「あッいたい!!いたい!オガタ!!」
口角上げてにこやかに(いつの間に持って来たのか)手にした銃の銃口を私の額にグリグリ押し当ててくるオガタに僅かばかり殺意が芽生える。絶対おでこに跡ついてる。
「って違うじゃん。そんな話をしてたんじゃない!お布団リビングに敷くからちょっと手伝ってよ」
「客は持て成すもんだろ?」
「客だと思ってた事に驚きが隠せない」
「ここへ来たのは不本意なんだが?」
「ここに来られたのも不本意なんだけど?」
本当何もするつもりがないのかリビングのソファにドカリと腰を落とし動こうとしない。いや待ってそこどいてくれないとお布団敷けないんだけど。
とりあえず物置き部屋から来客用のお布団をひと組運ぶが一気に運ぼうとしたのがダメだった。運んでる内に全てが自分の手からずり落ちていく感覚がしてしまいもう諦めた。
あと少しだったのにドサドサ、とリビングに繋がる扉の前で落としてしまい扉越しにオガタを呼ぶとさっきまで何もする気が無かった彼が「なんだ?」と返答しながら扉の前までやってきた。
オガタが扉を開けると敷布団と掛け布団と枕の3点セットを床に落とした私と目が合い「後は頼まれてくれるだろうな?」とアイコンタクトをし、私はお風呂にお湯を張りに向かった。運ぶの面倒だったわけでもないし、敷くのも面倒だなって思ってたわけじゃない。
「えーーー」
リビングに戻ろうとするとなんとまあ、私が落としたお布団セットがまだそのままになっていた。
「ねえーこれオガタの布団だよ?ちゃんと自分のことはやらなきゃだめじゃん」
「お前が落としたんだろ。最後まで責任持って運べよ」
「正論すぎて言い返せないけど運んでくれても良かったと思う」
「じゃあ枕運んでやるよ。後はお前が運べ」
「普通逆じゃない?」
「運んでやるだけ良いだろうが。」
「何様なんだよー」
「それなら頼めよ、運んでください尾形上等兵殿と。」
「世話になってるくせによく言うよね」
グゥの根も出ないのか目がキュッと細くなったオガタを見て勝ったと小さくガッツポーズを見えないように噛みしめる。
こんな下らない事をしてる前にさっさとお布団を敷かなければ。時計を確認するともう20時を回っている。休みの日は肌のためにシンデレラタイムの1時間前である21時までには絶対寝ると言う事を欠かさず生きてきたのに残り1時間しかないではないか。
もう諦めよう。
自分一人でいる時はそんなに感じないが誰かとこうしていると時間なんて本当にあっという間だと改めて感じる。
「お布団敷く前にソファ退かすの手伝ってね。」
「まったくそんなことも一人で出来んのか?」
「もう放り出したい」
お布団セットをオガタに託して私は一人でよっこらよっこら言いながらソファとローテーブルを退かしていく。
ようやく退かし終えた、と達成感に浸りたい所だが今度はお布団を敷かなければならないのだが、正直これくらいはして欲しい気持ちでいっぱい。
ちらりと彼を見ると胡散臭い笑顔でお布団セットを指差している。
「まだ仕事は残ってるぜ?」
「その仕事は時間外なので受け付けません」
「俺を冷たい床で寝かせるのか?」
「こう言う時だけしょんぼりした顔になるのやめてよー!心痛むじゃん!もうやればいいんでしょ!もう!!」
「ははあ!」
その前にお風呂のお湯を止めに断りを入れて浴室に向かう。
ちょうどいい加減の温度に水位を確認してリビング戻りオガタ、と声をかける。
彼がお風呂に入ってる間にお布団の準備をしておこうという事だ。
だがオガタからの返答がなく、どうしたのかとソファの手置き部分に腰掛ける彼の背後に寄って顔を覗いてみると信じられない、この人こんな所で寝ておる。嘘でしょ、ついさっきまで元気そうに会話してたじゃん。電池が切れた子供のソレではないか。ちょっと笑うんだけど。オガタの背後からそのまま手を肩に置いて「こんな所で寝ると体痛くなるよ」と揺さぶり起こすが一体何がなんでなのか分からないが一向に起きようとしない。
これ絶対狸寝入りでしょ。
「ま、お布団は敷いておけば勝手に使うでしょ。」
適当にお布団を敷いて、私もお風呂にでも入って寝よう。
ひとつ欠伸を落として電気を消しリビングを後にした。
もう時計は21時を優に越していた。
- 7 -
*前次#
ページ: