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初めまして。

そう一つお辞儀をしているのは僕たちが総北高校に入学した一ヶ月後というタイミング的に凄く微妙な時期にやってきた、転校生だった。


「父の突然の転勤により、本日から総北高校に通うことになりました姓名です。よろしくお願いします。」


彼女の行動一つ一つにうっとりとしたため息がそこかしこから聞こえてくる。
右隣の席の女子を見れば顔をほんのり赤くして熱を帯びた目で姓さんを見つめているのだ。そう、姓名さんはビジュアルがとても男の子で男の僕ですら見惚れそうになるくらいだった。


「小野田の左が空いているからそこに座ってもらえるか?」


先生の声でハッとする。
羨ましそうな顔をした女子が此方を見つめているのが痛いほどよく分かる。
平然な顔をして姓さんは僕の隣にやってきて一言、よろしく小野田くん。と笑った。

あ。めちゃくちゃかっこいい。

ガタンッと立ち上がり「こここここちらこそ!よ、よろひく…」勢いよく頭を下げると机に頭をぶつけてしまい机上にあった筆箱が床に散らばるのが視界に入った。
クラスの人たちからは笑われ、何してんだよって。
慌ててしゃがみ込み散らばったモノを拾い上げると消しゴムだけが見当たらない。


「はい。これ。」


姓さんもしゃがんで目線が一緒の高さになり、距離も近い。
今泉くんといい勝負な顔立ちに体が固まってしまう。


「うちの兄もね、ラブヒメ見てるよ。」

「えっ!?」

「仲間だね。」


僕の手に消しゴムを乗っけるとまた笑って自席についたのを僕はぽかんとした顔で見ていた。



***



「って事があったんだ!」

「へぁー!転校生が来る言うんは聞いとったけど小野田くんのクラスやったんやな!」

「本当にかっこいい人だったんだよー!クラスの子たちは今泉くんを見てるみたいでね!」

「なんだそれ…」

「ハーーン!スカシ泉くんは黙っとってもらえますかー?今小野田くんの話聞いとるんでー!」

「なんだと鳴子」

「ちょ、ちょっと今泉くん!鳴子くんも!」


一日も終わり、部活のために部室で着替えながら今泉くんと鳴子くんに今日あったことを話す。
まさか姓さんのお兄さんがラブヒメ見てるだなんて誰が思うだろうか。とても嬉しくて舞い上がってどのタイミングで姓さんにラブヒメの話を切り出そう!とばかり考え、その後のことはあまり覚えていない。

ちゃんと姓さんと話したかったな。

明日も話しかけてみよう。
楽しみが増えた事に喜びを覚えサイジャに着替え、とうの昔に着替え終わっていた二人の後に続き部室を出る。


「巻島先輩!私は諦めません!必ず振り向いてもらえるよう努力しますので!」

「…ショォ…」

「えっあ、あの!まきっ、巻島先輩…!」


部室を出ると少し離れたところから先ほど二人に話していた姓さんが巻島さんと話をしているのが見えたし、声が聞こえてきた。

僕より少し先に出た今泉くんと鳴子くんが顔を見合わせて驚いた顔をしている。一体どうしたのか。

ペダルを思い切り踏み出しその場を去っていく巻島さんに、しょんぼりとした顔をし姓さんの全てから溢れる「悲しい」という感情が遠巻きに見えた。
こちらに気が付いた彼女は僕に向かって全力で走ってやって来た。その時の顔はこの世の終わりを見たかのような表情で正直顔が良い人がしてはいけないようなものだった。


「お、お小野田くん。み、見てた…?」


顔を赤く染めて僕の肩をガシリと掴み揺らしてくる姓さんに女の子の面もあるのだと知った。
男の子のようなイケメンの部類に入る彼女だ、今朝の挨拶や学校生活から滲み出るように、普段もきっと内面からスマートでしっかりしていて何があっても動じない、金城さんタイプだと思っていた為この一瞬で彼女へのイメージがいい意味で壊れた。


「カッカッカッ!あんたが姓名ちゃんか!ワイは難波のスピードマン鳴子章吉!よろしゅうな!」

「俺は今泉俊輔。」

「えっあ、ああ。初めまして。本日転校してきました姓名です。よろしくお願いします。」

「小野田くんに聞いたけどホンマにえらい男前な顔しとるな!スカシ泉くんより男前とちゃうかー?」

「え、や、恐縮です…」

「ねえ姓さん、今巻島さんと何話してたの?」

「先輩と普通のお話しようとしたのに、勢いあまって告白をしてしまいました…」

「え。」


両手で顔を覆い小さな声で、振られましたけど。と呟く姓さんに僕は思考回路がストップしてしまったようだった。


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