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私の地元は田舎である。だが、商店街に沿って建ってた築うん十年の家と、その家から徒歩15分に駅があるため見る人によってはそれは田舎ではないという人もいるだろうが、よくよく見るとその商店街もシャッター通りと言っても過言ではないし、電車だって一時間に良くて二本、最悪ゼロだ。

その環境に不満を持っていたわけではない。近くには山があり、暇さえあればハイキングに出かけられる。山に行けば滝があり、その先には小川になる。川のせせらぎを聞きながらの夏のハイキングはなによりも心地よく、癒される。

小中とずっと女学校に通っていた。
だから高校もエスカレーター式の中学の高校に行くはずであった。いや現に四月の最初だけは通っていた。
高校生になり、薄々責任感という物を感じ三年間同じ仲間たちと謳歌しようと思っていたのを思い出す。


「名、すまん。本当に悪いと思っている、ありえない時期に転勤が決まってしまったんだ…」

「高校受かってこれからって時に、ごめんなさいね…お母さんも今困惑してて、、」

「それは、もしかして、」

「父さんと一緒に千葉に来て欲しい。お前の兄さんも今千葉で働いてるからどうせならまた家族で、と思ったんだが…」

「転校…」


何たる絶望。
このあり得ない時期に転校だなんてふざけているのか。仲良しグループが出来上がる四月に転校生が放り込まれるだなんてこれはぼっちの完成だ。

いくら周りからしっかりしていると言われてもまだまだ子供。つい最近まで中学生だった子供がこれから毎日ぼっち飯だのぼっち体育だのそんなの考えられるか。


「や、やだ…みんなと離れたくない、」

「名、本当に悪いとは思ってる。此方にお前だけを残すのは不安なんだ。」

「私一人暮らししてみたかったし、大丈夫だよ!」

「たとえ田舎だとしても、何があるか分からないじゃない…何かあった時すぐに来られる距離じゃないのよ…?」

「でも!」

「名、頼む。」


学校生活で一人ぼっちになるくらいなら、一人暮らしをして此方に残った方が万倍良い。けれど二人はそれを良しとしてはくれないようで私は渋々承諾せざるを得なかった。



***



四月中旬のある土曜日。総北高校に受験するために千葉にやって来た。知らない地での一人は凄く凄く心細い。
こんな不安に満ちた顔じゃ落ちてしまう、だめだ。シャンとしなければ。

私ならできる。そう言い聞かせて門をくぐり、担当の先生に案内をされ教室に入ると一気にまた緊張した。


「まあ、気楽にやると良いよ。」


テストは五教科。今まで通っていた学校が進学校で良かったと今心から思えるほどの手応えにガッツポーズを決めずにはいられない。
この試験がうまく行けば私も来月からこの総北高校の生徒になる。そうしたらもう今通っている高校のみんなとは簡単には会えなくなってしまう。とてもじゃないが私の精神面的には堪えるものがある。
新しい友達が出来ることを期待はしているが、あまり社交的ではないからほぼ大半が絶望しか思い浮かばない。ため息をひとつついて帰り支度をして校舎を後にする。

休日練習をしている部活の声を聞きながら歩く。このあたりでは見慣れない制服を纏う私を物珍しそうに遠目から見てくる生徒もいて居た堪れない気持ちでいっぱいになる。

さっさと帰ろう、そう思い校門を跨ごうとした時、後ろから自転車が近付いてくる音がして少し端により立ち止まり軽く後ろを見ると緑の長い髪を揺らして細い自転車に乗る人が私の前を横切っていった。


「か、かっこいい…」


私、転校してよかったかもしれない。

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