04


「ま、巻島先輩!あなたが好きですッ、お、おお昼をご一緒しても構いませんか!」

「…いや…無理ショ…」

「え、あ、はい…そうですか…あ、あのッ!明日も来ますので、その時はご一緒させてくださいね!」


それではまた明日。
キラリ、そうにこやかに言ってどこぞの山神のように指をさし去っていったのは最近小野田から聞いた転校生であり、俺に突然告白してきた転校生でもある。
俺に向けられた彼女の笑顔に俺の周りにいた女子が黄色い声をあげたのを耳を塞ぎ衝撃を回避する。

元々あまり人には興味はなかった故、小野田は俺に嬉々として転校生について詳しく話してくれたのを思い出す。
小中と女学校で育った彼女はなんともまあ、漫画に出てくるような王子様(一部ではナイト様と呼ばれてるとかなんとか)のような出で立ちで、初日から女子が速攻に落ちていったらしい。まるで漫画の世界のようだったと小野田は言っていた。

何度でも言うがそんな彼女に転校初日に愛の告白を受けてしまった。
あのイケメン女子転校生に告白された相手が俺だと言うのを運動部の奴らに見られていたらしく、次の日から俺を一目見ようとあの転校生のファンが俺の教室に来るようになった。
小さな声で「タマムシじゃん」やら「え、あれが好きなの?」「姓さん目大丈夫かな」など陰口が聞こえてくるが彼女は毎度休み時間になると俺の元にやって来るのでその時だけ陰口が瞬間的に消えてなくなる。


「先輩、その顔も素敵ですよ。」


その一言で一気に騒がしくなるからもうお前喋んなっショ。
何度も思った事だが言っても聞かないし、何より言葉で伝えたいのだと言われたら俺にそれを制限する権利はない為もう好きにしてくれ。と頭を抱えてしまったのは記憶に新しい。

周囲の目が痛く感じハッとする。
あの初日からファンを作った彼女だ、こんな人通りのある廊下でのアレは流石に出来たばかりのファンの連中から反感買うやつっショ…。


「巻島にも春が来たか〜?」

「いやいやいや田所っち、俺には来てないショ。向こうに春が来たっショ…」

「なぁんかよー、お前って変なやつに好かれるんだな」

「面白がってる顔してるショ」

「箱学の東堂が見たらどんな反応するか楽しみだぜ」


色んな意味でこれから俺は生きて行けるのか不安になるショ。
ポケットの中で鳴る携帯にハッとし開くと送信者は小野田。
山に一緒に行こうとの誘いだろうかと思って携帯を開いてすぐ閉じた。
もう一度開いて見ても何も変わらないが再び開くとそこには、さっきの転校生の連絡先が添付されていた。


『巻島さん親衛隊が出来ました!』


嬉しそうな小野田のメッセージに顔が綻ぶが、不安で胸はいっぱいになったのは確かだった。


『俺に親衛隊は要らないっショ』


それだけメールを返して田所っちと中庭へ向かう。
その最中ずっとニヤニヤしている隣の大男を本気でど突きたくなったのは内緒の話。

パンを頬張る男の横で一口、二口と自分の昼食に箸を進めていくとあの転校生が一人で飯を食っているのが視界の端に見えた。
向こうがこちらに背中を向けている為俺たちがいるのに気が付いて居ないようで黙々と食べているその後ろ姿は少し寂しそうだった。

そりゃまあ中途半端に転校してきたわけだし仲のいいヤツが出来ないのは仕方ないとしても、女子に持て囃されるならば一人や二人くらい友人ができてもおかしくないのでは。
隣にいる田所っちもジッとその背中を見つめ、ぽつりと呟く。


「人気ってのは、時には残酷だな。」

「なんの話っショ」

「人気だからファン通しで牽制し合う事だってあるって事だろ。クラスの女子が言ってたぜ、女子の一人飯ほど心が抉られるモンはねえってな。」

「そんな事になってるとかヤベェ奴じゃん…」

「東堂といい勝負じゃねぇか!姓とか言ったか?確か小野田と同じクラスだったよな。あれは流石に可哀想だよなぁ。」

「そういうのはあんまり手を回さない方がいいっショ。小野田があいつと食べたいって思ったら、あいつみたいに飯誘うなりしてくる筈だしよぉ。」

「お前ってやつはよぉ…一応思い寄せられてる癖に冷てえやつだな。」

「俺が好きとか、キモいでいいっショ」


ボソリと呟いた一言に食べ終わったパンのゴミをまとめ、ため息を零す田所っちに対して眉間にシワが寄る。

時計を見ると昼休みもそろそろ終わろうとしている。
昼食の後の授業に憂鬱を感じ立ち上がると田所っちが「おい、」と。あちらを見ろ、とでも言いたいのかこちらを全く見ていない為その目線の先を辿るとそこにはこれでもかと言うほど目を輝かせた転校生がこちらを見ていた。


正直、あいつのセンスを疑うっショ。

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