03


合格通知が来て私は五月から総北高校の生徒になった。
元々通っていた高校の友人達には何も言えず、そのまま転校するという最悪の形になってしまった。

転校初日には前の高校の友人や先輩後輩からなんで言ってくれなかったんだと泣きながら電話されたり鬼メールが送られてきた。さよならなんて寂しい。そう書かれたメールに胸が痛む。添付された写真を開くと色紙を書いてくれたのか、私の名前がど真ん中にでかく書いてある。
拡大して一つ一つ読んでいくが、いかんせん。沢山の人が書いてくれた為画素数の問題で読みきれない物もあった。


「姓さんって部活はどうするの?」

「部活?考えてなかったけど、小野田くんは何か入ってるの?」

「僕は自転車競技部って部に入ってるんだ。凄く楽しいから、一回見学しに来てよ!」

「自転車…」


自転車と聞いて編入試験のあの日を思い出し、緑の髪を靡かせ走る彼に胸がキュッとした。


「じゃあ、放課後行こうかな。」


あの緑の人に会えるだろうか。転校初日にまた会えたら嬉しい。ただただそれを思いながら残りの授業をこなす準備をした。

私の席は窓際の後ろの方。
不意に窓を見るとどこかのクラスがサッカーをしているのが目に入る。
髪の毛の赤い男の子がちょこまかと走るのをなんだか微笑ましく思えた授業中だった。



***



神さま仏さまこれが運命というものでしょうか。
小野田くんに誘われて自転車競技部の見学に行こうと思って部室に向かっているその途中で自転車をおす、あの緑の髪の人に出会えたのだ。

あまりの突然の再開に心臓がばくばくしてとても痛い。
ジッと見つめる私に彼は小さな声で「なんショ…」と呟きこちらを見遣る。
会いたいと思っていた人に会えた喜びに一気にテンションが上がってしまった。


「あっあの!私は本日から総北高校に転校して来ました一年生の姓名といいます!」

「ん、あぁ…転校生…俺は三年の巻島裕介ショ。」

「ぅ、あ…ぁわ、私っ、あなたが好きです!お付き合いしていただけませんか!!」


空気がピシリと音を立てて凍った気がした。私の血の気が引いて行くのが分かる。きっと今の私は顔面蒼白に違いない。ちがう。これは何かの間違い。


「……無理ショ…」


間違えました、そう伝える間も無く先輩はすごい顔をして一言そう目を逸らしながら呟いた。
再びやらかした事を後悔するも時が戻るわけでもない。


「巻島先輩、私は諦めません!必ず振り向いてもらえるよう努力します。」

「…ショォ…」

「えっあ、あのっまきっ、巻島先輩…!」


ならば開き直ってしまえばこちらのモノだ。ジッと先輩の目を見つめていたがスルリと視線をかわされてそのまま自転車に跨り去っていってしまった。
第一印象が大切だと言われているこの世の中で今、私の第一印象は地に落ちている。

転校初日に告白するだなんてなんて大胆なイベントフラグを立ち上げたのだろうか。


肩を落として振り向くと授業中、窓から見た赤髪の男の子と背が高い黒髪の男の子と目が合う。その後ろの建物からは小野田くんがヒョッコリと出て来たのが見えた。あ、見られた。


「いやぁ!名ちゃんまさか巻島さんが好きとはなぁ!で、どやったん?」

「見てましたよね」

「なかなかに玉砕しとったなあ!」

「ちょっと鳴子くん…!」

「いいよ小野田くん、本当の事だもん。でも諦めないから。」

「お!名ちゃんはガンガンいくタイプなんか!ちゅーか見れば見るほど男前やし一途なんやなぁ」

「ねぇ姓さん、無理してない?だ、大丈夫?」

「正直凹んだけど、突発的に告白した私も悪いし、これから先輩と距離を縮めて行こうと思うんだ。」

「カッカッカッ!女も度胸っちゅー事やな!!名ちゃん!ワイ応援するで!」


振られた所を彼ら三人にモロに見られてしまい、これはもう誤魔化しきれない。明日から学校中の話題になりそうだ。転校早々笑い者にされるのか、残念だと思っていたが鳴子くんが軽く私の鬱蒼とした気持ちを笑い飛ばしてくれ、応援までしてくれると言ってくれた事に救われた。

笑うたびにバシンバシン、と背中を思い切り叩かれて痛みに耐えながら私の転校初日は終えた。

小野田くんも応援してくれるそうで初日から私は味方を二人も作ることが出来た。良かった。だがずっと叩かれる最中ずっと可哀想な目で見てくる今泉くんのその表情を私は忘れないだろう。

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