「んー、見るからに普通の女の子だね」
「あ、はは…出来たら下ろして頂けると本当嬉しい、です…」
「するとでも?」
「思ってません…」
竹谷くんや善法寺くんのおかげで結構頑張っていける気力が湧いて、よし、今日も一日頑張ろうと気合を入れに顔を洗いに行き、自室に帰ってくる途中で後ろから声をかけられ、反射的に振り向くと明らか怪しい包帯忍者さんに足払いをされ片を足捕まれたかと思うとそのまま近くにあった木の枝にくくりつけられてしまった。
あ、頭に血がのぼる…!
「また天女が来たって言うから見に来たけど…伊作くんが言うように普通だね」
「そ、そうですね…あまり取り柄のない一般市民です…」
「でも噂では死なないとか?」
「それはあくまで噂で、そんなこと、」
「別に天女だから死んでも構わないし、試してみる?」
「ひっ、」
「怖いの?何度も殺されてるって聞いたんだけど?」
「お、お願いです、痛いのは嫌なんですっ、なんでもします、なんでもしますから!や、やめて…!」
飄々と話す忍者さんは懐からクナイを取り出し私に見せ付ける。いやだ、痛いのはいやだよ。今にも泣きそうになるのを見て、ぶすり、とクナイが私のくくりつけられた方の足の付け根を深く、深く抉るように刺す。途端に血が溢れだし逆さまに吊るされた私の顔面に血がバシャバシャとかかった。
なんて鉄臭くて嫌な味なのだろうか。
気持ちが悪い、痛い、誰か助けて。
そう言えば足の付け根には大きな血管があったような気がした。いやだ、また私は死んでしまうのか。
頭にも血はのぼり、足からは止めどなく溢れる血。
「へえ、君は本当に不思議だね」
ふふ、と笑う目の前の包帯忍者が足の付け根の傷をじっくり見つめる。
「傷がもう癒えてきてる。」
「ぅ、あ…?」
「ほら、血の量はあるがもう傷口は小さい。君は自然治癒の能力が優れてもいるのかな。」
「い、いたっ、い!やめて…!」
楽しそうに傷口をその指で抉り出すこの男に恐怖を覚えた。
どうしてこんな事をするの、何が楽しいの、誰か助けてお願いだから、
「君はどうしてここにいるんだい?」
「っ、ど…して、」
「ここを出ようとは思わなかったのかい?」
「…?おも、た…け、ど…」
「逃げられなかったのかい?」
意識が朦朧とする。そんな中で包帯忍者は私に問い掛ける。
「君はどうしてここに来たんだい?」
どうして、なぜ、なんて私が知りたい。
どうして私が、
なぜ私が、
「かん、が…ぇる、の…つ、らぃ…」
希望は捨てない、けれど持つ事はやめた。私は帰れないのだと、以前学園長さんが出席簿を持ったあの忍者さんと話しているのを聞いてしまった。
帰れるかも知れないと期待をしていた、だって、ここに来たのならば私はあそこにだって帰られる。そう思うのは当たり前の事ではないか。
でも、私は帰られない。
その一つの事実が私をどん底に落としていく。
帰れないのなら私はこの世界のルールに沿わなければならない。
そして私はそのルールに抗える程、力はないのだ。
ここを出てどうする。
宛のない私はここで何度も殺される方が暖かいのだ。
嘘。
殺されたくなんてない。
愛されたいとも願わない、ただ、普通の人として扱ってほしい。天女では無く、苗字名前として、見てほしい。
溢れる涙に男はまた笑う。
「君は哀れな子だね」
あわれ。
そう言って足にくくりつけられた縄を切って頭から落ちた私と距離を置いて立ち尽くす。
「居場所を求めてさ迷う君は、酷く滑稽だよ。じゃあね、私はもうお暇するよ。」
瞬間に消えた包帯忍者、視界に消えた彼に安堵し血塗れになった服のまま、私は何事もなかったかのように与えられた部屋に帰っていった。
(帰りたい)(家族に会いたい)(でも、)(無理なんだ)
頭がくらくらする。
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