未だにドクドクと脈打つ脚の付け根を見ないように、止血をする。が、見ないと思うように止血が出来なくて、そのうちにクラクラし始めた視界に、ああまた死んじゃうんだ。そう思った。
包帯忍者さんが言うには傷口は小さくなってはいるらしいけれど私からしたらそんなこと無くて結構な傷になっているように見える。もう何もやる気が起きなくて止血をするために持っていた布を放り布団の上に寝転がる。
「泣いたって、」
徐々に眠くなる。
重い瞼を閉じまいと努力はするけれどその努力虚しく目を閉じた。
「天女さま、朝ですよ。天女さま。」
体を揺すられ目を開ければ出席簿の忍者さんが私の顔を覗き込んでいた。
どうやら今はお昼少し前みたいで起きてこない私をこの人が様子見としてやってきたらしい。
「何があったんですか。」
「…おはようござい、ます」
「おはよう、じゃなくて!この血は一体…」
その言葉にハッとする。
慌てて脚の付け根を見ると綺麗に傷が消えていた。
あんなにもエグい有様だったあの傷がだ。
傷が無くなった事に安堵はしたがそれと同時に私はまた死んでしまったのかと悲しくなった。
「天女さま、話してください。なにが、」
「……」
「私を見てください。ゆっくりでいいです。話してください。」
「あは、は。いつもの事ですから。」
怖かった。
彼を視界に捉える事が、私には出来なかった。
よくよく部屋を見渡すと本当に驚くほどの血の量で畳や襖を赤く染め上げていた。こりゃあひどい。
布団の上で寝てしまったので真っ赤っかで触るとグチョリといやな音を立てた。
今日着る着物どうしよう。
こちらの世界に来てから学園長さんのお知り合いという方から頂いた古着を何着か頂いてはいたが何度も殺されその古着が見るも無残な布切れになってしまい、今日着るはずだった着物で頂いた古着が最後だった。
だがその着物も、布団の頭の上に用意してあったため血で染まってしまっていた。
今日は朝から本当についていない…。
流石にこんな血塗れの着物を着る勇気も無く小さくため息をついた。
「…とりあえず、部屋を掃除しますので。」
「自分で、します…」
「畳を交換出来ますか?襖を替えられますか?」
「……お手伝いお願いしたいです」
「今から用具委員を呼びますので、寝巻きから着替えておいてくださいね。」
「あの。」
「どうかしましたか?」
「き、着物が、無いんです…この着物が最後の一枚で、、」
「分かりました、着物は用意します。待っていてください」
そう言うと彼はこの場を去り、残された私は部屋の隅で体操座りをして、朝の、頑張ろうという決意を丸めて何処かに捨てた。
少し経ったら部屋に綺麗な女の人が入って来た。
その人は私を見るなり目を見開いて困ったような顔をして私の視線に合わせしゃがみ込む。その仕草に、前されたことを思い出し身動ぎをしようとした時、彼女の両手が頬を覆った。
驚いて彼女を見ると目が合った。
「貴女は何に怯えているの?」
「っ、ゃ…」
「私が怖いですか…?」
「こ、ころさ、ない…で、…おねがっ、」
暖かい手、その暖かいと感じた手に私は幾度となく殺された。
また私はこの暖かい手に殺されてしまうのか。
心臓の脈打つ音がどんどん早くなり、呼吸もしづらくなって成人しているというのにみっともなく私は泣き出してしまう。
「貴女を怖がらせるために来たんじゃないの、土井先生に話は聞いたわ。着物がないんでしょう?私のお古で良かったら着て頂戴。…だからお願い、泣かないで。」
「ぁ、う…っ」
「何もわからない状態で放り出されて辛かったでしょう、大丈夫よ。貴女は何も悪くない、悪くないわ。」
「ち、がう…私が悪いから、ここの人達は私を殺す、んです…死ねるならっ、私だって、、」
そこまで言って言葉が詰まった。
なぜなら私はこの女の人に抱き締められているから。
暖かい、あたたかい。
不安な時お母さんはいつだって抱き締めてくれた。
泣くなという自分の思いと反してポロポロと涙が溢れて止まらない。そんな私を彼女は力強く、泣き止むまで抱き締めてくれた。
(かえりたい、)(もう痛いのは嫌だよ)(あいたいよ、)
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