抱きしめられたその状態で私はあれから気がすむまで泣き続けてしまった。他人から見ると哀れで滑稽かもしれないけれど私にとっては久々に感じた優しさと言う実に暖かいモノだった。
だが簡単に信じるのもいかがなものなのか、彼女だって腐っても忍であり、その忍を育てる学び舎の教師なのだ。
同性というものを武器にこうして近付き叩き落とす計画なのかもしれない、新たな手で私を追い込むスタイルを取りに来たのかもしれない。


私、ここに来てから人間不信が酷くなってきたような気がする。

最初ここに来た時はまだそんな事無かったと思う、本当に。
だけれどこうも毎日命を狙われるとこんなにも人格と言うか人というものはガラリと変わってしまうのだと身に染みて感じた。
シナ先生からの着物に目をやりため息。
ため息をつくと幸せが逃げるだなんて言うけれど私の幸せはどこにあるの。
むしろそんな幸せなんて私にはあるのだろうか。


「そんな辛気臭い顔しちゃって、女の子なんだから笑顔になりなさいよ」

「シナ先生…」


ニコリと微笑む彼女に私は安堵と同時にゾッとしてしまう。
信じたいのに、されて来た事がフラッシュバックして彼女の声を、言葉を、私の心に落とそうとするのを思考が遮るのだ。

人は恐ろしい生き物だと、この時代に来てしまってから学んだ唯一の事。


「シナ先生にとっては可愛い生徒でも、私にとってはとても恐ろしい。」

「そんな事、一体誰が決めたのかしら?」

「え?」

「ここに居る子たちは確かに今は私にとって可愛いかけがえのない生徒たちよ。でもね、あの子たちが忍術学園という学舎を出たら、きっと、変わってしまう。変わらない子はいない。何かが起きてもしかしたら私たちにとって恐ろしい子たちになり得る事だってあるのよ。」

「…でもそれは想定していれば受け入れられるのでは、」

「想定していても、いなくても。最悪の事態になればきっと心が痛むわ。」

「忍に、心はあるの?」

「ええ、もちろん。忍だって人なのよ。だからきっと貴女とも分かり合える日が来るはずよ。」

優しい声で、優しい手付きで私を優しく抱き込めてくれるシナ先生に幾分救われた気がした。けれど、そんな日が本当にやって来るのだろうか?ここへ来てから毎日毎日嫌がらせのように繰り返されるその行動にこの優しさをまた、疑ってしまう。
もしかしたら、くノ一は同じ女として少しでも私に同情してくれているのでは?そう思った。

ジワリジワリと視界が歪んでくる。
ああ、また私は泣いてしまうんだ、そしてまたシナ先生を困らせる。

小さな声でごめんなさい、そう呟けば背中を撫でられ「貴女は悪くないのよ。」と囁いてくれた。
ああ、ああ。なんて優しい人なんだろう、同じ忍とは思えない。そう、思えない。

今日、この時から私はシナ先生に心を許すことになった。


抱き締めてくれるシナ先生がどんな顔をしていたなんて、


わたしには しるよしもない。