もし声を上げてそれが受け入れられるのと言うのなら、迷わず私を認めてくれと言うだろう、否、殺すのなら一瞬で終わらせてくれと言うだろうか。


「お噂は予々。死んでも蘇るという事ですが、成る程。そのようですね。」

「……そうですね、」

「そして、私たちの事を知らない。それは何故ですか?」

「…普通は初対面なら、知らないのは当たり前なのでは…」

「ですが今までの天女様はそうではなかった。私たちを知っていた。名前だけでなく、どういう人間なのかも何処の忍なのかもね。」

「そ、れは、エスパーなのでは…」

「えす?…よくわかりませんが、貴女は今までの天女様とは違うというのは確かですね。」

「私には関係ない、ことです…」


山田さんは障子をパタリと閉めて私の目の前に座る。
私は敷布団の上に座り、掛け布団を頭から被って恐る恐る彼を見ているのだ、かなりシュールかもしれない。


「あの、なにか…」

「いえ。一度貴女と話がしてみたかっただけです。今日の予定は?」

「今日は、…朝から、門の周りの掃除と、しょ、食材の買い出し、野菜を洗ってご飯の、下ごしらえ…それ、から…えっと、、」

「分かりました。ですが今日はもう既に夕方です。下ごしらえも出来ないでしょう。学園長先生には許可を貰ってありますので残りの時間を私に頂けませんか」


答えの選択肢がはい以外がない。
板間に直に座っている彼に渋々どうぞ、と普段使っている座布団を差し出し私はそのまま敷布団に座り掛け布団はちゃんと畳んで彼に向き直る。
ジッと見つめられなんだか私の考えている事を全て見透かされているような気がして落ち着かない。忍なのできっと心理学などお手の物なのだろう。

これから始まるのはきっと尋問のようなモノかもしれない、殺されるよりはマシかと握っていた拳を更にキュッと握り来たるソレらに覚悟を決めた。



***



驚いた事に彼からの口からは、いわゆる世間話という物しか出てこなかった。誰と知り合いだの、あいつには会ったことあるか?や、あそこのうどん屋さんは美味しい、おすすめの茶屋はあそこかな。など。
正直誰かの名前を出されても全く分かっていないので相槌する程度で済ませている。

「名前さんの世界はどうですか?」

心ここに在らず状態で聞いていた私に突如振られた内容に、え?と返してしまった。勿論、質問は聞いていたのでそれに答えはするけれど話したところで彼には分からないだろうと口籠る。


「きっと貴女の話は分からないでしょう、ですが先も言ったように私は貴女の話が聞きたいんです。なんでも構いません、貴女の世界を教えてください。」

「…わ、私の世界…」

「では貴女の家族の話からしますか?」

「……両親が、います…妹もいて、とても仲の良い…家族、です。妹は可愛くて私より勉強が出来て、スポーツだって…私とは大違い。そんな妹が私の自慢で、ここに来た日は妹の誕生日で、仕事帰りにケーキを…かって…気付いたら、ここに居て…ケーキが、ぐちゃぐちゃに…妹が大好きだったんです、ショートケーキ…それが、踏まれて…」


あの日の事を思い出すと自然と言葉が詰まって視界が歪む。結局あのケーキ捨てられちゃったんだ。そうクマの酷い忍者が言っていた記憶がある。忍者というのは血も涙もないのだと、こちらに来て分かった事だ。むこうにいた時は夢に溢れた存在で、外国の方なら目を輝かせるレベルだというのに、こんな残忍だと誰が思うか。
私が知ってる忍者は猿飛佐助と風魔小太郎くらい。
その二人もこんな事してたのかと思うと本当夢が壊れた気分。

しょんぼりしていると彼は大丈夫ですかと肩に手をかけてこちらを見やる。
私は大丈夫、置かれた手を制して彼を見れば困ったような傷付いたような顔をしていていた。どうしてそんな顔をするの、貴方は忍者でしょう?そんな顔しても大丈夫なのか。
こちらも困った顔をしていたのか小さく笑って払われた手を増やし肩をしっかり掴まれ完全に向き合わせられる。強い意志を持った双眼が私を貫く。


「貴女は天女様ではない。非力な人間です、頼る人間を見定めてください。私が貴女を守る盾になりたい。」