「あ、あの…こんにち、は…」

「なぜ、生きているんだ…」


あの時確かに首を斬られたと思っていた。だって最後に見た景色は首のない私の体だったのだから。
そしてそんな私はといえば気付いたら首を斬られたその場所にポツンと立っていた。小さなパニックに陥っていて逃げるのを忘れ、見つかった私と見つけた忍者との会話が冒頭にいたるのだ。


「え、と、その…うらめしや…」

「……」


私は死んだ。これは絶対間違える事の無い事実故にきっと幽霊になってしまったのだと察しての発言に眉間にシワを寄せた隈の酷い忍者がカチャリ、と刀を構えてこちらを睨む。と同時にザザッと現れる忍者たちに目を丸くする、今もまた夜で月が綺麗に輝いていてこの前と同じように抜かれた刀が光っていた。

「おい、何故こいつがいるんだ」

「知るか!異変がしたから来たらいたんだよ!」

「あ、あの。」

「とらえろっ!」


ワアッと一斉に飛び掛かられあっという間に地に突っ伏した状態で取り押さえられ振りかざされる刀が視界に入り、その行く末を目で追えばまたしても私の首にその刀が滑り落ちる。



嗚呼、一閃。











「こ、こんにちは〜…」

「…はあ、」

「…」

「何故また居るんだ」

「…私が、お聞きしたいです…」


困ったようにため息をこぼした隈の酷い男は、もうこちらを睨み付けて来ることもない。
彼らの反応を見るに私は死んだがまた現れていることに驚いている様子で自分が幽霊説というのを捨てた瞬間だった。
目の前の男は頭抱えてブツブツと言い始め、ここに居てもまた首を刎ねられるという恐怖に心臓をフル稼働させられるのかと思うと怖くて仕方がない。


「あの、帰り道を、」

「教えるとでも思うのか?」


あの夜と同じ目だった。鋭く光り睨みつける彼に動けないでいるといつの間に現れたのか数人の忍者に囲まれていた。
どうして皆そんな恐ろしい顔をするの。私が何かしたのだろうか。足が竦み動けないでいると顔に傷のある長身の男が無表情で近付き私に向かい手を伸ばされたと思った矢先に縄で縛り上げられた。とてもじゃないが早業過ぎて頭が追い付かない。軽々と俵担ぎをされその場にいた全員が無言である場所へと向かい歩みを進める。

何故こんな事になっているのだろう、あまりにも不幸すぎる。これは夢なのではないか。そうでなければこんな世界の不幸を一身に受けているかのような気分になるはずが無い。

溜め息をついて項垂れていると一つの部屋の前で止まった。数人の忍者が失礼します、と行儀よくその部屋に入っていく。私を担いだ顔に傷のある忍者もゆっくり入っていく、かと思いきや私を思いきり投げ飛ばす。


「い、痛い…」

「娘よ、」

「は、はい!」

「先日、お前さんは死んだと報告を受けた。何故、儂らの前に再び姿を現わす。」

「お爺さん…あ、あの、私…」

「不死の娘よ、お主はどこから参られた。」

「ど、こ…って、」

「二度も首を刎ねられた。だがお前さんは何食わぬ顔でこうして何度も現れておる、不死と言わずになんと言う。」

「ち、違いますッ!私は不死ではありません!きっと何かの…そう!夢です!夢ですよ!私が不死なわけがありません!」

「お主に関わった者全てが同じ夢を…と?そんな事は有り得ない。それは自分自身が一番分かっている筈であろう。もし、お主の存在が他にバレてしまったらいかん。見世物になるのは間違いはない、もしくはいいように使われる。いつかこの忍術学園の脅威になるやもしれん。」

「どういう…」

「死んでも次の日には生き返る。最高の兵ではないか?」

「そんなっ!私はただの人間です!私を馬鹿にしてるんですか!?帰ります、縄を今すぐ解いてください!」

「今の話を聞いておったか?お主は学園で保護する事に相成った。」

「どうしてですかっ!私は貴方たち同様同じ人間です!保護される対象にはっ、あ、ぐぅ…」


ドカリ、と首に何かが刺さった。何が起きたのか分からないが目の前のお爺さんと犬が焦り何かを叫んでいる。
グラリと体が倒れていくのが分かる。と共に首に激痛。畳に滴る赤にようやく理解が出来た。目を見開き誰がこんな事を、と辺りを見回したい気持ちでいっぱいではあるがそろそろ意識が体とさよならをするらしい。ああ、死ぬって痛いんだ。全てがあの時の様にスローモーションに見える。あの時?あの時とはどの時だ。誰かがにたりと笑ってる。寒い、指先があまりの寒さで痛みが出てくる。ヒュ、と息をしようとするが上手く呼吸ができない。脳裏をよぎったのは、白い箱、が。