ドクタケ城にやって来て一週間くらい経った。
忍術学園での暮らしがまるで嘘の世界だったような気がする程、今心穏やかに暮らせている。
「おお、名前。こんな所におったのか。」
「稗田さんこんにちは、お仕事お疲れ様です。」
何故私を掬い上げてくれたのかは正直分からない。分からないけれど此処に居る人達は皆さんとても優しくしてくれるし、何よりもこうして会話をしてくれるのだ。
何て幸せなんだろう。ただ何気ないこの会話すら幸せを覚えて、これはもしかして夢なのかもしれない、だとしたらこの夢がずっと醒めないでいて欲しいとも思えてしまうほど。
「名前はよく働くのう。だがあまり無理はするんじゃあないぞ?いいな?」
「あの、少しでもご恩をお返し出来ればとおもいまして…」
「忍術学園で散々な目に遭ってきたのだろう?ならもう少し休んだらどうなんだ?」
「わ、私にはこれくらいしか、出来なくて…それに、こうしてお話が出来るのが、嬉しくて」
そうかと優しく笑い頭を撫でられる。この人は私の頭を頻繁に撫でて来る。嬉しい反面恥ずかしさもあるがこんなにも穏やかな気持ちになれるのは稗田さんのお陰であるため何も言うまい。私ははたしてこの人に、ドクタケ城のみなさまに恩返しが出来るのだろうか。いざとなった時、私は身を呈して救い上げてくれたこの人たちを守りたい。
非力な人間が何をほざいていると言われるだろうがそれほど私はここの人たちに感謝をしているのだ。
「今日はもう休むといい。ドクたま達がお前さんを探していたぞ。」
「え、あ、はい!」
「中庭にいるはずだ、山ぶ鬼が駄々を捏ねん前に早う行きなさい。」
「わ、分かりました。それでは失礼します。」
門の前を箒ではいていた手を止めて稗田さんにお辞儀をして慌ててその場を後にする。
用具室に箒とちりとりをしまい、ついた埃を払って井戸で手を洗って少し乱れた髪の毛を整えドクたま達が待っている中庭へと走り出す。
***
「おまたせしました。」
「名前さん遅いー!」
「何してたんだよ!待ちくたびれたー!」
「いぶ鬼もしぶ鬼もそんな事言うなよ、名前さんだって暇じゃないんだから…」
「そうよー!ねえねえ名前さん、一緒にお茶しましょうよ!」
「はい、喜んで」
中庭につくと大きな岩の上で楽しそうに笑いこちらに手を振ってくれる四人の小さな子供達につい笑みが溢れてしまう。
此処へ来た当初、忍術学園を彷彿させるその子達を見たときは体の震えが止まらなかったが彼らの優しさに騙されてまた殺されるのではないかという恐怖が消えてしまい、今ではこんな純粋な子達を疑ってしまい心が痛む日々である。
自分に子供がいたらこんな感じなのだろうか。この時代で私の年齢は謂わば行き遅れと言うもので私の年代の人たちはもう家庭を持って、下手すりゃ孫までいるのではないか。いやそれはギリギリ有り得ない。
だがそう思うと何故だか再び心がチクリと痛む。仕事に明け暮れ恋愛なんてしてこなかったツケが今こうして私の心をえぐりそこに塩を塗られるのだ。
キュ、と小さな手が私の手を包み、サングラス越しに感じる居心地のいい視線にまた心が穏やかになる。
手を引かれ、やって来たのはドクたまの教室。畳に上がりお饅頭の入ったお皿とお茶を差し出された。
「ねえ、名前さんはこしあんのお饅頭とつぶあんのお饅頭どっちが食べたい?」
「私どちらも好きだからみんなが食べたいの食べて」
「えーー!名前さんのために買ってきたんだよ?名前さんが食べたいの選んで選んでー!」
「じゃあ、こしあん頂いてもいい?」
「ンフフー!はい、どうぞ!」
「ここのお饅頭、とーーっても!美味しいんだよ!」
「本当だ、すごく美味しい」
差し出されたお饅頭を一口頬張ると優しく広がる甘さに自然と顔が綻ぶ。
「でしょー?」
「名前さんが嬉しいと、僕たちも嬉しいんだ!」
ああ、幸せ。
私は今、生きている。
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