何故こんな事になってしまったのだろうか。どんなに考えてもわけが分からない。これはきっと事件に巻き込まれたとしか考えられない、いや、そう考えないと心が押し潰されてしまう。タイムスリップとかどこのアニメ?私は全く嬉しくないし、こんな室町時代で生き抜く事なんて出来ない。死んだ方がましなんじゃないかなって本気で思うけど死んでもこうやって生き返ってしまう私は本当化け物。

忍術学園に居候させてもらって数日、私はお風呂の番をするお仕事を与えられ、黙々と与えられた業務を確かにこなしていた。
けれど何故かここの学生たちは私の事が本当に嫌いな様で事あるごとに嫌がらせをされる。昨日は死なないという噂を聞きつけた学生数人が薪をくべ火の番をしていた私の腕を掴み、その手をあろう事かその火の中に突っ込んだのだ。あまりの熱さと痛さに叫び声を上げたかったが口を塞がれ私は彼らの気が済むまでその火の中に腕を入れられ続け、ようやく終わったと思った。ら、私の腕はドロドロに溶けて痛みすら通り越えてしまっていた。


「…えぐい…」

「ちょっと天女さま、どうしたんですかその腕。」

「えっ、いや、つい火傷してしまいまして…」

「へぇ。つい、ね。昨日の生臭い独特な臭いは貴女でしたか…見せてください。」

「……気持ち悪いし見ないほうが、」

「ああっもう!良いから見せてください。留さん居るんだろう?湯番を変わってくれるかい!」

「痛ッ…!引っ張らないでください、私は大丈夫ですから…!」

「そりゃ大火傷してますからね、痛いのは仕方ありません。昨日から我慢していたんですか。」

「……」

「無言という事は肯定と受け取ります。」


茶髪の忍者さんがトメさん、と呼ぶと目つきの悪い男の子が音もなく現れた。昨日の事を思い出し、どうしよう私リンチされるかもしれないと今日はどんな酷い事されるのか。
そんな不安を他所に目つきの悪い男の子は私と茶髪の子を交互に見て眉をひそめるが私の腕を見るなり目を見開いた。


「おい伊作、その腕…」

「昨日からずっと我慢していたみたいだよ。」

「…だがこの女は、」

「僕は天女さまは嫌い、でも保健委員。それだけだよ。」


天女ってきっと私の事だろう。嫌いなのは嫌いで構わないが目の前で嫌いと言われて傷付かない人は居ないだろう。私だって人間なのに。
真剣な目で私の腕を診、懐から薬の様なものを取り出し塗り付ける。これは毒ではないのか、不安で仕方なくて彼を見るが毒ではないですよ、と優しく笑う彼に安心してしまった。が、


「…あ、の。」

「どうかしたのかい?」

「あたま、が」


クラクラする。
そう言葉にしようとした時、私の腕を診てくれていた茶髪の子がニコリと笑った。


「薬、効いてきたみたいだね?」


ああ、やられた。
よく時代劇とかで忍者を信用するなとか言ってるシーンがあったけれど本当だと思った。
少しでも信用して腕を診せたのがいけなかった、クラクラとしてきた思考回路では何も考えられない。ただただ視界が真っ暗になるのを他人事の様に感じるだけ。


『大丈夫ですよ、貴女はただ眠るだけですから。』


目を閉じるとき、確かにそう聞こえた。


寝て、目が覚めたら元通り。そうだったら私は幾らでも…