いつか漫画で読んだことがあった、死んで土葬された人が棺の中で目をさまし涙を流し地上に這い出た。月日こそ流れていたが少女は死んだその日のままで、今も生きていた。


「同じように…死ねるなら良かった」

「地面から頭を生やして何がしたいんですか」

「…起きたら、こうでした…」

「大方綾部あたりがやったのだろう。」

「助けては…」

「断る。私は委員会で忙しいんだ。それでは。」


アヤベくんと言う子にどうやら私は殺されそのまま頭を出した状態で土に埋められているようで、それを見つけた黒髪の麗人男子くんに声を掛けられたのだが例によって助けてはくれない。分かっていました。だって私は嫌われ者の天女さまですから。
誰か助けてくれないだろうか、なんて淡い期待を胸に空を眺めていたら地響きとともにソレはやって来た。
ソレは掛け声と共に私の首をベキリ、と蹴り倒した。
整体を受けた時より激しい骨の悲鳴に自分の耳を塞ぎたくなったのは言うまでもないし、思った以上に激痛が走る。泣く前に視界がブラックアウトしてしまった。



***



「おお、目を覚ましたか。天女さますまんな!ボールと間違えて蹴ってしまった!」

「ねえ小平太、ちゃんとボールかどうか確認しないとダメじゃないか。目の前で人の頭が信じられない方向向いたの初めてだよ。」

「はっはっはっ!これくらいで死ぬなんて弱いやつだ!放っておけば良いだろう!」

「あのね、僕は一応保健委員なんだ。」

「こいつは死なないんだろ?ちょっとくらい乱暴にしても大丈夫だと聞いたぞ!」


目を覚ますと私の体は土から掘り起こされていて、以前腕に大火傷負った時薬を盛って来た彼とボサボサ頭の子が何やら言い合いをしていた。
未だに違和感のする首をおさえて起き上がると少年たちは一斉にこちらを向いて大丈夫かと聞いていた。だが彼らの目は、また生き返ったのか。と落胆した冷たい目だった。

好きで生き返るわけではない。
出来るならこんなところとはおさらばして来世を楽しみたいと思う。そんな事も私は叶わない。


「天女さまは本当に生き返るんだな!今度的にさせてくれ!」

「…お断りします…」

「えー?なんで??死なないなら良いじゃないか!」

「小平太!!例えそうであっても命は命だよ。無闇矢鱈に奪うものではないよ。」


つまらない、彼は確かにそう呟いて私を睨みその場を去った。
私というものはそんなにも価値のない存在なのだろうか、簡単に殺されるただの人形なのだろうか。生き返るにしても痛みはある。痛くて痛くて仕方ない。いっその事痛覚も無くなればいいのにと何度思った事か。


「私は、苗字名前。苗字名前なの、天女なんかじゃない…!」

「天女さま、」

「ちがうっ!名前!苗字名前なんです!天女なんて名前じゃない、私は、人間なんですっ!」

「…僕たち忍たまからしたら、貴女は天女さまなんです。何をどう、もがいたとしても!貴女は、天女さま以外ありえない存在なんです。」

「そうやって今までやって来た子にそれを押し付けて来たんでしょう…!?」

「天女さまは僕たちからたくさんのものを奪い、傷付けてきたんですっ!それの復讐をして何が悪いんですか!!」

「なら、ならっ!!私だって何度も貴方たちに殺されてきた…!!貴方たちのその言い分が罷り通るなら、私だって貴方たちに復讐したって構わないんですよね!!でも、何で私がそれをしようとしないか貴方たちは分かりますか!」

「どうして僕が責められなくてはならないんですか、元を言えば貴女が来なければこんな事にならなかった!違いますか!」

「何もわからない、死に逃げる事もできない。ひとりぼっちの世界で私は誰にすがる事も出来ず毎日のように殺される。そんな恐怖、味わった事がないクセに被害者面しないでよ!!」


悔しかった。
私の気持ちを分かってもらえない事がとても悔しくて、彼は悪くないのに私は足元の土を彼に叩き付け走って逃げてしまった。

ごめんなさい、と何度も繰り返した。
面と向かって謝らなければ意味のない言葉だとは分かっていても、あの冷たい目で見られると悲しくて、悔しくてもうなにも考えられなくなる。
死んでしまえば、ラクなのに。
考えれば考えるだけ堂々巡りなのはわかってるけど何も変わらぬ現状に、受け止めてもらえない苦痛にどうしたらいいのかすら分からなかった。