夢の中で幸せそうに食卓を囲む一つの家族。
テーブルの真ん中にはケーキが置いてあり何本かロウソクも立っていて、ああ、この家族の中の誰かが誕生日なのだろう。そんな幸せそうな家族を私は離れたところで見ている。
私も確かケーキを持っていたような気がする。
「お誕生日、おめでとう。」
何の気なしに呟いた言葉に目の前の家族がこちらを向いた。
ああ、知ってる。
この人たちは、私のーーー
「…ケーキ…」
目を覚ましたらもう見慣れた天井。
それに対して何度ため息をついて幸せを逃してきたことか。
「もし、あの時ケーキを受け取る時間をズラしていたらこの現状が変わっていて、私は無事に家族の元に帰れていたのだろうか…」
そういえば無残に踏み潰されたケーキは一体どうなったのだろうか。やはり捨てられてしまったのだろうか。
隈の酷い彼に一度聞いてみなければ。
と、思ったけれど私は彼がどこにいるかなんて知りもしないし興味も無かったためこの広い学園を適当に探し回る事なんて無謀にも程がある。
起きたばかりのボーッとした頭を回転させてとりあえず支度して食堂に行かなければ。
「おはようございます。」
「あら名前ちゃん、おはよう。今日はジャガイモの皮をむいてくれるかしら?」
「お安い御用です、おばちゃん。」
お勝手の外でショリショリと慣れた手付きで皮をむいていく。向こうにいた時も共働きの両親に代わってよくご飯を作ったものだ。
ショリショリ、ショリショリと綺麗に帯を作っていく皮を見てため息一つ。
「お誕生日、おめでとう。か。」
祝ってあげられなかった。
自分の誕生日を楽しみにしていた妹にその一言すら言ってあげられなかった。
帰られるものなら帰りたい。
今すぐに帰って力の限り、家族を抱き締めたい。
「あ。」
ふ、と前を見るとそこには隈の酷い彼。
「……」
「…貴様、伊作ともめたようだな。居候の分際でよく大口が叩けるな。」
「…すいません。」
「ここは貴様の家ではない、貴様の味方なぞ誰もおらん。それを頭に入れておけ。」
「、あの。つかぬ事をお聞きします。」
「なんだ。」
「初めて殺された時、貴方が踏み潰した箱はどちらに…」
「ゴミ溜めに捨てた。」
「………そう、ですよね」
ゴミ溜めか…せめて食べれる所はあっただろうに。
あんなに美味しいものを躊躇なくゴミ溜めに捨てられるだなんて、高かったし、心がこもっていたものだったのに。
隈の彼はションボリしている私を鼻で笑い、踵を返し去っていく。
その姿を私は何も言えずに眺める事しか出来なかった。
再びジャガイモに目を落とすと今度は自分を覆うように影が落ちた。誰だろう、でも顔を上げるときっとまた罵詈雑言言われてしまう、暴力を振るわれてしまう、怖い。
ジャガイモと包丁を握っている手がカタカタと徐々に震えだす。
「天女さま。」
「……は、い」
「僕は不破雷蔵。貴女のお名前は?」
「え…」
「名前ですよ、昨日叫んでたじゃないですか。」
「あ、えっと、名前、私は名前です!」
髪の毛にボリュームがある少年、不破くんは笑ってそのまま隣にしゃがみ込んだ。どうしよう、もしこれが学園長さんの耳と目に入ったらきっと私は酷い事をされる。
名前を聞いてくれたのはとても嬉しかった、でもそれとこれとは全く別で早く隣から居なくなって欲しいと切に願ってしまう。
緊張のあまり先程まで綺麗にむけていたジャガイモの皮もガタガタで時には身まで抉ってしまい不恰好。
「名前さんは僕たち忍たまのことどう思いますか?」
「え、や、あの。イイコ達だなって…オモイマス、」
「嘘が下手ですね、そんな事思ってないって顔してます。そうですね…僕たち忍たまは貴女のこと「知ってますっ!そんなことっ!」
「…貴女はそれでいいと思ってるから行動を起こさないのでは?」
「起こしたって、何になるの…学園長さんに思いをぶつけたところで結局あの人も、貴方たちと同じ。」
「貴女の死を願っている、と?」
「口では何とでと言える。けれど目がそれを望んでいるんです。私だって、何度願ったか。」
「…正直、僕は貴女がどうなろうと知ったこっちゃありません。天女は天女。僕たちはそう思ってしまう。知っています、貴女が何をされているか。何を言われているか。」
「やめて。本当にもうやめて、、自分の立場は自分がよく分かってるつもりなんです。それ、以上言わないで、」
持っていたものを全て落としてその手で耳をふさぐ。
聞きたくない、彼らの言葉に耳を傾けてはいけない。
ギュッと目を瞑り溢れ出そうになる自分の感情にゆっくりゆっくり蓋を閉めていく。またもめて隈の彼に咎められるのはゴメンだ。
泣きそうになるのを我慢していると頭を二、三度ポンポンと優しく撫でられて顔を上げると不破くんが笑っていた。
「どんなに悲しそうにしたって僕は貴女なんて大嫌いなので心は痛みません。どうぞ悲劇のヒロインぶって絶望して殺され続けてくださいね。」
腐っても忍のたまご今のが一番鉛玉だった。
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