12
「やらかした…」
影郎丸に石をぶつけてからずっと冷や汗が尋常じゃないくらい流れている。あの二人がやられてから犬夜叉たちに引き止められたが結局奈落が怖くなって逃げ出してしまった。あの虫まで私の後を付いてきていたらしく一部始終を見られていただろう。それを奈落に告げ口されれば終わりだ。
サーッと青ざめる。
「いや、それよりあとどれくらい歩けば奈落の所にたどり着くの…」
虫がブブブと羽を鳴らして誘導してくれるが歩いてばかりはやはり辛く、回避していたが腰をとうとう下ろしてしまった。
こうなったら暫くは動けない。下半身が回復するまで多分かなりかかる。いつかの日に珊瑚ちゃんから貰った草鞋で出来た靴擦れが痛み、ため息をひとつついてボーっとしていると虫が目の前の枝にとまった。
こうしてみると何だか可愛く思えてきてしまう。すごく受け入れがたいが慣れって怖い。
「お腹すいたな。」
「おい。何やってんだい?」
「あ。神楽」
一人虫相手にうだうだ独り言を言っていたら木の陰から神楽が姿を現した。今までの事を一通り話すとたいしたこと無さそうにほっとけ、と軽く流されてしまった。
「そんな事より」
「そんな事!?」
「殺生丸がまた力つけたみたいだぜ」
「……だれ?」
「犬夜叉の兄貴だよ」
「また敵…?」
「奈落から見たらそうなるだろうね。アタイからしてみたら奈落から解放してくれる強い味方だぜ?」
「いや、神楽はいいかもだけど私の場合は行き場がないし…」
「ハン!そんな事でウジウジしてんのかい?だったらアタイがなまえを連れてってやるよ。」
「え?」
な?と軽く扇子で肩を叩かれ、神楽は笑う。
でも犬夜叉たちが話していた内容からすると奈落と神楽は繋がっているはず。もし、誰かが奈落を倒したら必然的に神楽も消えてしまうのでは?勿論私も消えてしまうのでは…?
だけれど私の存在がちゃんとここに存在しているから、同じように奈落から生まれたっていう私と神楽だって奈落が倒されても神楽が繋がっていようが消えないんじゃないのか?ん?よくわからなくなってきた。
「まあ、奈落が倒される前にアタイは奈落から心臓取り返さなきゃだけどね」
「私の心臓も奈落が握ってるんだよね、」
「…」
「え、神楽顔怖いんだけど…」
「気に食わねえがなまえ、アンタの心臓はアンタの胸の中だぜ。」
「えっ?でも私傷が治ってた…これって奈落に心臓取られてるからの特典じゃないの?」
「言ってる意味がよく分からねえが、アンタの心臓はアンタが持ってるはずだぜ。胸に手を当ててみな。」
奈落、謎が深まるばかりの存在。そっと左胸に手を当てると小さくトクン、トクンと鳴る心臓を感じた。私の心臓は、私が持っている。あまりよく分かっていないが神楽の心臓は奈落が持っているってのは何となく理解できた。
だがこんな事を私に話していいのだろうか、若干神楽が心配になってきた。それを問うと唯一の自由なやつだから。と言われた。これこそ意味がよくわからなかった。
気付けば日も沈み始めていて神楽に促され羽根に乗って奈落の元へと急いだ。
城につくなり神楽は用事があると言って踵を返し私の前から去り、それと同時に前方から現れたのは黒く長い髪を揺らした巫女だった。ゆらりと揺れた髪、キリッとした目に透き通る白い肌。パッと見かごめちゃんかと思ったが雰囲気が違う、どことなく近寄りがたい、そんな感じがする。でも何故かこの人と会った事があるような気がしてとても懐かしく思え涙が出て来るのを必死に止める。
「あなたは、ききょう…」
「貴様は誰だ。何故私を知っている」
「えっあ、何ででしょう…?あ、私はなまえです」
「奈落の分身、か。」
「…あの、その話なんですが、」
「邪魔だ。」
「えっ、ちょ…」
ぐいっと肩を押され巫女は城から出て行く。
「なまえ。」
「?」
「お前は、なぜ奈落と共にいる。」
「え、?」
ただ一言私に投げかけ今度こそその場を後にした。
こちらに来てから間もない為に人物関係がいまいち分からないまま、彼女の背中が見えなくなるまでただただそこに立ち止まり空を見上げた。
相も変わらず曇天、と言えばいいのだろうか。自然と出来る色味ではない事は確かな空の色味にファンタジーを感じる。考えれば考えるほど分からない事が次々溢れてくるから一つ息をついて奈落のいる部屋に向かった。
***
「奈落ただいまぁ」
「貴様、裏切ったそうだな?」
「記憶にございません。」
部屋に入ると視線だけこちらに向けていかにも不機嫌ですという表情をした奈落が座っていた。その傍らにはあの虫が。
こいつが絶対チクったに違いない、許すまじ虫野郎。
「なまえ」
「はい!」
「次は、ないと思え。」
「え、あの、はい…」
フン、と鼻で笑って失せろと言葉を投げられた。
奈落の様子が少しおかしいとは思いながらも詮索すれば何かされそうなのでそそくさと部屋を後にした。
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