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「お前のあるべき姿はそれではない」

「桔梗は私のこと知ってるの?」

「お前の瞳が物語っている。お前は人間ではない。かと言って奈落の分身でもない。」

「待って付いていけない」


人間でもなければ奈落の分身でもない、そんな事を言われて「はいそうですか。」などと納得なんて出来る訳もなく、桔梗から投げて寄越される言葉を理解するのに必死である。
正直、人間ではない事は気づいてた。きっと妖怪なんだろうなって思っちゃったこともあった。


「私が人間じゃなかったとして、存在しちゃいけないのだとしても私は今ここにいるよ」

「…お前には記憶がないんだな。」

「たしかに赤ちゃんだった頃の記憶は曖昧だけど…」

「違う。もっと昔だ。」

「え、前世の話?」

「前世ではない、まだお前が人の形、胎児になる時より昔の話だ。」


桔梗は電波な人種なのだろうか、その疑問が脳裏をよぎり体の動きが止まる。


「彼奴はお前を覚えているのに、お前は何も誰も覚えていない。」

「え、」


あいつ、とは一体誰だ。
誰も覚えていないとは一体どう言うことだ。
桔梗の表情は変わらない、何も変わらない。そうすると言っていることは嘘ではないと頭の中でもう一人の私がそうつぶやいた。気がした。

でも桔梗の言うように記憶がないというは本当に私にはよく分からない。
前世と胎児の間の記憶ってことだろうか。いやでも前世ではないもっと昔って言ってたから前世ではない事は確か。
え、ちょっとよく分からない。


「ねえ桔梗、私は…」


頭の中が混乱して頭を抱えて居たのがいけなかった。
気付いた時には桔梗は忽然と姿を消し、今ここに居るのは私だけになってしまっていた。

桔梗は私を知っている。

それだけは確かに私の中の一つの疑問に答えを当てはめてくれた。


「私が人間でも妖怪でもないなら、一体どんな化け物だって言うの、」


私の独り言はポツンと森の中に浮かんで誰にも届く事はなく、静かに消えていった。


***


ザワリ、ザワリと頭の中がとても騒がしく感じ目を開ける。
気付けばもう日が沈み周りは真っ暗で月明かりだけが私を照らし、夜行性の動物たちの鳴き声が辺りに響き渡っていた。

ああ、もうこんな時間なのか。
蛮骨と離れて随分と時間が経ったんだ、そうか。きっと蛮骨心配してる、だからはやく帰らなくては。

はやく、かえらなくては。


「どこにかえるの。」


不意に頭上から落ちてきた声に顔を上げる。
そこにいたのは大木の枝に座り真っ白な着物を着た顔の整った金髪の青年。
彼は私をジッと見つめ、そしてニコリと笑い言った。


「ようやくあえたね、なまえ。」


いつのまに降りてきたのか私の目の前には視界いっぱいの彼の顔。そして握られる両手。
こんな顔の整った異性にずっと会いたかったんだ、そう言われて照れない女が居るのか。否、居ないだろう。


「なんで私の名前、知ってるの…」

「ふしぎなことをきくんだね。ぼくたちずっといっしょだったのに」

「初対面だけど」

「でも、ぼくはなまえをしってるし、なまえもぼくをしってるはずだよ。」

「難しい精神的な話?」

「むずかしくないよ、なまえがおもいだせば、それですむことだよ。」

「桔梗と同じ事言うんだね…でも私は何も分からないんだよ。」

「ううん、なまえは覚えてる。ぼくはヤヒコ。桔梗がぼくにくれたなまえだよ。そしてなまえは、たった一つのぼくのほこりだよ。」


またあおうね。
それだけ彼は私に投げかけ返答も聞かずに消えてしまった。