07


人の背丈よりもある水草みたいなものをかわしながらサラサラと水が流れる川に竹筒を入れて水を汲む。ああ、思い出す。初めてこちらに来てしまった時のあの悪夢を。あーあ、服だって走ったり転んだりしまくりで汗塗れの泥だらけだ。着替えが無いって本当不便、一度かごめちゃんが服を貸してくれたけどかごめちゃん細すぎじゃない?ちゃんと食べてる?って聞きたくなるほどだったから諦めてこのままでいることにした。でも幸いTシャツにスウェットズボンな為動くのだけは本当楽。オシャレして遊んでる時に神隠し似合わなくてよかった、ヒールで山道走り回るのは自殺行為だ。足を持っていかれる。本当運は良かったのだとゴポゴポと音を立てて水を吸い込んでいくソレを見ながら小さくため息をついた。


「いたぞ。」

「小春に違いねえっ」

「え?」


水草からいきなり棒を持った男の人が数人、思い切り殴り掛かってきた。驚いて後ろに避けるが避けきれず肩に棒が当たってしまい激痛が走った。骨殴るとか人と思えない、骨に当たったらめちゃんこ痛いんだぞ知ってんのかこの野郎!ここの人たちはすぐ暴力で語ろうとする所を直した方が絶対良いと思うよ。殴ってきた男が私の顔を見ると途端にオロオロしだし、殴られたがここまでどうしよう!って顔されたら悪態なんてつけずどうしたのかと聞くとどうやら人違いだったらしい。えぇ…殴られてそれはないわ。
ちゃんと確認してから行動にうつすのは大人として当たり前じゃ無いのか!なんて奴らだ。「そうだったんですか、今度から気をつけてくださいね」とチキンな私はそれしか言えずその場を後にしようとしたら急に現れた馬に跨る偉そうな人が何やら合図を送り私は周りの男の人たちに捕まってしまった。え、今人違いって言ってませんでした!?


「小春はもうよい、こいつを連れて帰る。」

「まってよー!!」


やだやだ有り得ない。かごめちゃんに頼まれて水汲んでただけなのに何でこんなことになってるの。連れて行かれてしまう、どうしよう。叫んだら誰か気付いてくれるだろうか、一か八かで大声を上げようと息を吸い込むと突如現れた犬夜叉に男の人が薙ぎ倒されていった。そのまま馬に跨る人の顔面に犬夜叉さんの拳がクリーンヒット。あれはきっと痛い。


「犬夜叉本当ありがとう、私あのままだったら攫われてた…」

「なまえは大人のくせに、なんというか…注意力が足りんのぅ。」

「すいませんでした…」

「あ、あの…」


犬夜叉の後に続いてやってきたみんなに心配されたが七宝の言葉だけが私の心に深く突き刺さる。私も一応気を付けてはいるのだが、ここへ来て間も無くどういう状況が危ないのかとか正直良くわかっていないのだ。(今回は私がボーっとしていたのが悪いけれど)シュン、と反省する私の前に申しわけなさそうにソバカスの女の子がひょっこり出て来た。
なんと小春とはその子の事で、私はこの子と間違えられ殴られてしまったようだ。ん?まって。背丈も全然違うことない?髪の毛の長さだって違うぞ。というか、全体的に違うくない?あの男たちは一体どこをどう見て私が小春だと思ったんだ、奴らの目は節穴なのか!そして思い出したが肩が痛い!みんな!私!肩負傷してるよ!
けれど私の怪我よりも、小春ちゃんが弥勒さんに会いたかったと抱きついた所為でみんなはそれどころじゃなくなって隣にいる珊瑚ちゃんの顔がえらい事になってしまっているのを私はただ知らん振りするしか出来なかった。



***



小春ちゃんから弥勒さんとの出会い、別れ、そしてプロポーズの説明(回想)をされ、本当弥勒さんて誰かの構わず若い女の子だったら声かけまくるのやめた方がいいよねって思わずにはいられない。珊瑚ちゃんの顔をみんな見て欲しい。私はもう怖くて見られないけど、きっと珊瑚ちゃんも弥勒さんの事好きなんだろうなぁ。真実は知らないけど、でも珊瑚ちゃんと弥勒さんはお似合いだ。
小春ちゃんと出会った場所から少し離れた所に廃寺を見つけ今後の事を話し合う事になった。小春ちゃんにどうしても連れて行って欲しいと弥勒さんに懇願するが私が言うのもなんだがこの過酷な旅について来られるのだろうか…ひとりぼっちの心細さは知ってるつもりだから出来るなら少しでも一緒に居てあげるのが色々辛い事があった小春ちゃんの心のケア的にも良いのでは。


「連れて行くのが不可能なら、次の村まで一緒に旅するのはどう?短い間かもしれないけどその間に小春ちゃんには心を決めてもらってさ、」

「なまえさんの言う通りですね、せめてどこか安全に暮らせる場所を見つけるまで…」


私の意見が採用され、近くの安全な村まで小春ちゃんと行動を共にする事になった私たちだが、そらもう私たちを取り囲む空気は気持ちの良いものではない。原因は明らか、小春ちゃんだ。彼女は弥勒さんにべったりくっ付いて離れる事がなく、弥勒さんは弥勒さんで珊瑚ちゃんの事を気にはしているが満更でもない顔をしている。


「ねえなまえさん、珊瑚ちゃんやっぱり気にしてるよね…」

「だよねぇ…私こういうときどうして良いか分かんなくて…役立たずでごめんね、」

「弥勒さまも弥勒さまよね…珊瑚ちゃんがいるのに鼻の下伸ばしちゃって」

「やっぱり二人は付き合ってるの?」

「んー付き合ってるって言うか、両想いなんだけど伝えきれてない感じ?」

「なにそのもどかしい状態。青春じゃーん」

「ねぇ二人とも。聞こえてるよ。」


なるべく聞こえないようにコソコソかごめちゃんとお話をしていたのだが当の本人である珊瑚ちゃんに丸聞こえだったようで鋭い目つきでこちらをギロリと睨んで来た。
ごめんね、と小さく謝り口にチャックをして私は一行の後ろをついてある事に徹した。

暫く歩いて行くと一つの村が見えてきた。
村が見つかって良かったと思うが小春ちゃんをチラ見するとこの世の終わりかのような、泣きそうになっていた。また一悶着ある可能性が出て来たのだろうか。かごめちゃんと目が合うとかごめちゃんも困ったような顔をしていた。



「この村に置いてやっていただけますか、村長さま。」


小春ちゃんの心が決まったのかは定かではないが、この村に彼女を置いて行く事になり弥勒さんが村長と呼ばれるおじいさんにお願いしているの間、家のすぐ側の草むらで待っていた。


「あ、弥勒さん。終わったの?」

「ええ。小春をこの村に置いてもらえる許可は貰いました。後は小春を説得するのみ、ところで小春は?」

「小春ちゃんならあそこに。説得、出来るといいね。」

「…そうですね。」


弥勒さんの表情が少し暗い、そりゃそうだ。過去にプロポーズをし、こうしてずっと弥勒さんの事を想って生きてきた小春ちゃんをここへ置いて行かなければならないのだから。
みんなの元へ歩みを進める弥勒さん。彼が戻って来たのを嬉しそうに小春ちゃんが駆け寄って来たが弥勒さんの話を聞いて行く内に徐々に表情が曇り始める。好きな人と分かれるのって死ぬほど辛いんだろうな。そんな経験はないが思わず涙が滲んでしまう。


「なまえさん大丈夫?」

「か、かごめちゃん…」

「なぁかごめ、あれ説得してんのか?」

「口説いてるよーにしか見えないわねー。」

「……………。」


小春ちゃんの手をしっかり握り見つめ合う二人を見て涙ぐんでる自分が馬鹿馬鹿しく思えた。

夜になり小春ちゃんも説得する事が出来、みんなで村を後にしようと村長さんに挨拶をするが見送りにこない小春ちゃんに心が痛む。けれどこんなところで足を止めている訳にはいかなく、先を急ぐ彼らの後についてその場を後にした。





なまえ。


「え?」


小春ちゃんが心配だな、そう思うのは私だけではないようで弥勒さんが少しだけ寂しそうにしていた。どちらも可哀想だとは思う。でも仕方がない事だと自分の中に落とした時、誰かに呼ばれた気がした。
振り向くけれどそこには何もない夜空が広がっているだけだった。一体なんだったんだろうと肩をすくめるがそんな疑問などすぐに飛ばされた。

星が綺麗だね。そうだね。とかごめちゃんと呑気に話をしていると道の向こうから見え出す灯りと人影に違和感を感じて立ち止まる。


「ねぇかごめちゃん、あれって村の人たちじゃない?」

「本当だわ。でもどうしてこんな時間に…」

「待って、なんか様子おかしくない?」

「殺せ!」


鎌や鍬を持った村人が私たちを見つけると一斉に襲いかかってきた。私たちが一体何かしてしまったのか、分からないが村人たちが理由もなく他人を襲うはずないからきっと原因は私たちなのだろうか。犬夜叉がバンバン村人たちを殴り倒す様を非力な人間である私はこっそりと珊瑚ちゃんの後ろから眺めていた。
殴られ一度は怯むが再び立ち上がり彼らは村から出すなと口々に言っている。一体何が起きたのだろうか珊瑚ちゃんが操られていると言うが犬夜叉は妖怪の臭いはしないと否定し、だがその台詞は最猛勝と呼ばれる虫たちによって覆された。待ってあの虫そんな名前なの。というかまたこの虫が現れたという事は私への祟りなのでは。もしかして犬夜叉が妖怪の臭いがしないというのは私への祟りだからで、きっとあの虫たちに操られているのでは…!?待って本当私みんなの足引っ張ってる。虫の存在を確認すると小春ちゃんの心配をしたのか元来た道を戻り弥勒さんは走り出し、そんな彼を追って私たちも村長さんの家に向かった。

村長さんの家に辿り着くと入り口で倒れ込む小春ちゃんの姿を見てゾッとする。もしかして、そんな、さよならの時こそ会えなかったがあの時笑っていたじゃないか。こんな形で小春ちゃんとさよならするならもっと小春ちゃんとお話すれば良かった、傍観なんてしていなければ良かった。恐る恐る小春ちゃんに近付いてみると息があり、小さく揺すると小春ちゃんが目を覚ました。生きている。ホッとしたのも束の間、家の周りを囲まれてしまい身動きが取れなくなってしまった。



「小春、ここで待っておいで。」

「なまえとかごめもだ」

「う、うん」

「いってらっしゃいぃぃ…」


私たちの事を頼むと犬夜叉と弥勒さんは珊瑚ちゃんにそう言うとすぐさま家の外に飛び出していった。
小春ちゃん、かごめちゃん、私を任された珊瑚ちゃん。その珊瑚ちゃんを守るのは七宝?え、七宝?任せられるの?珊瑚ちゃんを守るという事は七宝が一番強いという事になる、そうか、七宝は一番強いんだ!凄いぞ七宝!私は何も出来ないけど、いざとなったら盾になれるからその時が来たら頑張って体を張ろう。


「珊瑚ちゃんの身は私が守るからね!」

「…気を使わなくていーよ、」


多分これは互いに考えている事がすれ違った気がした。しょんぼりとしながらため息をつく珊瑚ちゃんに今のはそういう意味で言ったわけじゃないよって誤解を解こうとしても、いつものことだ、とか気にしてないよ、とか私は徐々に珊瑚ちゃんの傷を抉るような事しか出来ていなくてもうだんまりする事にした。
私がしょうもない事をしている間に、かごめちゃんは小春ちゃんから気を失う前に妖怪の姿を目撃したと聞いていた。それを聞いて様子を見に行くのだと、かごめちゃんと珊瑚ちゃんは家の奥に走る姿を見て急に不安になる。行ってはダメだ、何かおかしい。小春ちゃんも二人について行こうとしていて止めるが反対を押し切り奥へ進んでしまったのを見て私もこんな所に一人でいるのは流石に怖かったので渋々奥へ歩みを進めた。

中には村長さんたちが倒れていて家の中を寂しく風が吹く。小春ちゃん同様気を失っているようで息はあった。無造作に倒れてるからきっと起きた時体が痛いやつだ…三人は若いから起床時の体の痛みとか分かんないだろうけど、二十代後半の私にはわかる。変な寝方してみなさい、一週間は痛みが取れない。そんなのは可哀想だと思い他の三人が妖怪を探している間、一人でせっせと村長さんたちを綺麗に寝かせた。良いことするって気持ちいい。
視界の端っこで何か白いモノが見え幽霊かと思わず悲鳴を上げてしまう。するとそれは三人の探していた妖怪だったようで私の悲鳴を聞きつけた珊瑚ちゃんが飛来骨を放つが何故か跳ね返されそのまま飛来骨が珊瑚ちゃんに当たり弾き飛ばされてしまった。


「かごめ…」


その白い子がこちらを見据えかごめちゃんの名前を呼んだ時、小春ちゃんがかごめちゃんを羽交い締めにした。
女の子だろうが関係ない、助けてくれたかごめちゃんを傷つける人を私は許すわけにはいかない。乱暴だが思い切り殴りつけて転ばせてやるけれど痛がりもせずにまた立ち上がりかごめちゃんを羽交い締めにしてしまった。いい加減にしろよ、なんて心で呟き今度は体当たりを試みようと構えた時だった。


「なまえ」

「どうして私の名前を、」

「あなたは、違う。」

「な、なにが…?」

「どいて。なまえ。」

「なまえさん!」


名前を知られていたことに対し動揺していたせいか背後に忍び寄る影に気付かず、ハッとした時には遅かった。鈍い音が頭の中で響き徐々に感じる痛みに顔をしかめて振り返るとそこには倒れていた筈の村長さんが棒を持って立っていた。


「な、んで…」

「あなたは、一部…」

「なまえさん!あんたなまえさんに何するつもり!?」

「………魂…ちょうだい……」

「かごめ、ちゃん…」


ズキンズキンと頭が痛み力一杯殴られたのか意識も朦朧としてしまう。その最中、白い子の持っている鏡がかごめちゃんを捕らえた。危ない、そう思うが体が言うことを聞かない。
手を必死に伸ばすけれどその手は虚しく床に落ちた。

脳内に響く声が私を苦しめた。